皆様、初めまして。2017年9月にインテグラートに入社いたしました、高木一道と申します。私は大学卒業以来4年間、不動産会社にて分譲マンションの企画を行っておりました。
 入社前の自分自身を振り返ると、AIの進歩やイギリスのEU脱退のニュースなどに社会変化の激しさを感じており、また、30歳を目前に控える中で、自分の将来をどうするべきか考えていました。そんな中、弊社社長小川の著書『不確実性分析実践講座』を読み、これからの時代に必要となるスキルは仮説指向計画法ではないかと感じ、この度、インテグラートに入社をした次第です。まだまだ若輩者ではございますが、一日も早く皆様のお役に立てるよう精進いたしますので、今後ともよろしくお願いいたします。

 さて、本コラムでは、なぜ人が利他的な行動(※1)を取るのか、そして組織内で利他的な行動が起こりやすくするにはどうしたらいいのか、について考察をしたいと思います。

 まず、人が利他的な行動を取るまでの条件を分解し、次に各条件を満たすための施策を考えます。筆者は人が利他的な行動を取るには次のような条件があると考えます。

① 困っている人を発見し、その人の抱える問題を理解する
② 困っている人の問題を解決する能力(所有物や知識、時間など)がある
③ 困っている人の問題を解決したいと思う(その人を助けたいと思う)

 このうち①については困りごとのある社員が社内のポータルサイトやメール等を使って困っている内容を組織内で表明できる仕組みを作れば解決できるでしょう。困っていることを表明することに抵抗感のある人もいるでしょうから、必ず毎日1つは困っていることを表明しなければいけない等のルールを作るとより良いかもしれません。②については社員教育の拡充や、無駄な業務を削減し時間的な余裕を作るという施策が考えられます。

 ③については、まずは、なぜ人が他者を助けたいと思うのかについて、小田亮氏の「利他学」を紹介いたします。
 小田氏は利他的な行動について「これを説明する最も有力な説が、進化生物学者のロバート・トリヴァースが提唱した「互恵的利他行動の理論」である。(中略)互恵的利他行動とは、つまりは「お互いさま」の精神のことだ。」と述べており、加えて、「互恵的利他行動の理論だけでは、人間に見られる他人同士の利他行動を説明したことにはならない。(中略)助けてあげた相手から直接にではなく、全く別の人から間接的にお返しがあることがある。これを「間接互恵性」と呼んでいる。(中略)進化生物学者のリチャード・アレグザンダーは誰かにした利他行動に対したとえ本人から直接的なお返しがなくても、それを見ていた第三者によって、「あの人は親切な人だ」という評判がたてば、その後のやりとりで利他的にふるまってもらえるだろう、ということを提唱した。」と述べています。
 つまり、人が他者を助けたいと思う理由は、相手からの直接の「お返し」と親切な人だという「評判」を得るためということです。もちろん中にはお返しも評判も気にせず純粋な気持ちで利他的に行動できる人もいるのではないかと筆者は感じますが、おそらくそれはその人が特別優れているのであって、生物として人が進化してきた中で一般的に備わっている特徴としては、お返しと評判を得ることが、人が他者に親切に行動する理由ということのようです。
 それでは、お返しと評判という欲求を満たし、困っている人を助けたい気持ちを起こりやすくするためには何ができるでしょうか。筆者はお返しへの欲求を満たす施策として、人事評価制度に上司・同僚・部下からの評価を組み込む多面評価制度の仕組みを導入することが有効だと考えます。多面評価制度には仲の良い社員間での談合のような問題もありますので、良い評価と悪い評価の上下の一定割合を除くなどの工夫は必要でしょうが、利他的に行動された人が、人事評価という簡単な形でお返しをすることができれば、利他的な行動が起こりやすくなるのではないでしょうか。評判という欲求に対しては、社内のポータルサイト等に助けてもらった社員がお礼を投稿し、利他的な行動が組織全体に周知される場を作ることで、利他的な人だという評判を得る欲求を満たしやすくなると考えます。

 小田氏は「他者に対して利他的にふるまう人は、それが報われるような社会的ニッチ(※2)において生活しているのではないか」と述べています。これは、身の回りに利他的な人が多い人ほど、利他的な傾向が強いということです。利他的な行動が起こりやすくなる仕組みを整え、一度組織内の利他性が高まれば、利他性が利他性を呼ぶ良い循環を起こすことができるでしょう。

(高木 一道)

(※1)利他的な行動とは、自己の損失を顧みずに他者の利益を図る行動を言います。
(※2)ニッチとは、生態学においては生態的地位を意味します。

【参考文献】
小田亮(2011)『利他学』、新潮社