各企業の内部監査人の方々は「内部監査がステークホルダーからの期待に応え、経営に対し更に貢献するにはどの様な取り組みが必要か」を課題として日々試行錯誤しています。その取り組みの中でも、企業価値向上に貢献すること、減損を防止することが、今後の課題の一つとされています。また、企業価値向上や減損といった点では、内部監査に限定せずとも、昨今のM&Aブームからディール価格の高騰により、買収価格が適正か、またその投資を回収しお釣りが出るのか、悩まれている読者の方も多いのではないでしょうか。

 より不確実性を増す事業環境の中で、内部監査に対して企業価値向上や事業リスクへの対策について様々なステークホルダーからの期待が高まっていると筆者は感じます。そこで本コラムでは、事業投資に対する内部監査が事業経営でのより高いリスクに対する予防措置となることを論考します。
 その具体策として、今回は「投資評価規程に対する内部監査」を提言します。皆様には本課題・提言について、広くご意見を頂戴したく存じ上げます。

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 まず「投資評価規程」とは事業投資への評価に関する基本的な事項を定め、リターンの増加と損失の抑制に資するものと考えます。弊社では以下の3つの事項を重要と考えます。
1:投資意思決定時の事前評価
2:投資後の定期的フォロー
3:撤退案件の評価

 1つ目の事項は、事業投資は案件毎に個別の評価や意思決定をされることが多く、その評価手順が案件毎に異なることから、評価業務に対する学習が蓄積されず、忘れたころに同じ失敗を繰り返すリスクに対する予防措置です。評価手順を規定し統一することで、案件間の比較を可能にし、複数の案件・オプションから戦略的に意思決定することを可能にします。

 2つ目の事項は、弊社では特に重要と考えております。投資意思決定までは関係者が大騒ぎで議論をするのに(あるいは一部の上層部がクローズドに意思決定し)、投資後はブレーキの跡もなく減損に至る、そのような企業は残念ながらよくあると思います。特に現在のように企業買収価格が高騰しているときはその危険性は高くなります。弊社が製品・サービスの土台とする理論
「仮説指向計画法(DDP: Discovery-Driven Planning)」もまさにこの事項の重要性を強調しています。投資前に投資判断の前提の変化をどのタイミングで確認するか決め、定期的にフォローすることにより迅速に次の一手を打てるようにします。そうすることで「早く安く失敗する」ことを可能とします。

 3つ目の事項は、2つ目の事項とも深く関係しますが、迅速な軌道修正から場合によっては事業撤退のオプションを早期に実行するための事項です。「結婚前に離婚の条件を決める」ようなもので、あまりしたくはないことですが、経営資源の「選択と集中」を行うためには避けては通れない道です。

 以上の3点を踏まえた投資評価規程を弊社はお客様に提案しておりますが、企業毎異なる投資評価規程であるかと思います。今回は各社にある投資評価規程に対する内部監査を弊社は提言します。内部監査は決まっていないことは監査しようがないので、そのような業務はリスクに晒されていると言えます。しかし規程があるなら「規程に従い適正に事業投資の評価・意思決定がなされ、そして投資後に管理されているか」を監査することができます。また規程が存在しなければそのこと自体が事業投資業務の脆弱性であると言えます。事業投資業務は非常に専門性が高い分野ではありますが、だからといって担当部署がブラックボックス的に業務をすれば、組織の総合力は損なわれ、第三者が業務の適正性を評価するという監査の機能が働かなくなってしまいます。複雑になりやすい業務をいかにシンプルに設計するか、それが企業の業績に大きく影響を与えるのかも知れません。またその業務・仕組みに対して客観的に評価・保証・助言することが内部監査人は求められます。

 最後に業務を規程として明文化することの利点について、改めて考えてみます。筆者は下記3つの利点があると考えます。また規程の策定はあくまで情報共有の一手段です。
1:分かりやすさ
2:属人性の排除
3:詳細の深堀

 1点目は規程で業務が明文化されることにより、何を行いどの様な基準で評価すればよいか明確化されていることで、業務実行者は初心者でも分かりやすく、また熟達者はその規程を改善し、社内で効果的に情報共有を行うことができます。更に先ほども述べましたが、業務が明確化されるので第三者による監査が可能になります。
 2点目は何をやる必要があるか明確化されているので、人によるばらつきを抑え、業務の品質を長期的に保つことができます。また限られた人間による恣意的な評価・意思決定を排除し、個人の暴走を防ぐことが可能です。
 3点目は規程策定にあたり詳細を詰めることで、対象業務全体の抜け漏れや整合性を確認することができます。

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 以上、「投資評価規程に対する内部監査」を提言させて頂きましたが如何でしたか。冒頭でもお伝えしましたが、本課題・提言について皆様のご意見・ご感想がありましたら小職までご連絡をお待ちしております。今後も内部監査の益々の発展のために、尽力していく所存です。

(春原 易典)