皆様、はじめまして。2018年4月にコンサルタントとしてインテグラートに入社いたしました、今泉昂憲と申します。最初に私事で恐縮ですが、インテグラート入社前は石油開発業界で働いており、石油やガスの埋蔵量評価や生産性評価に関する業務に携わっていました。大学から専攻していた学問でもあり興味も学ぶことも非常に多かったのですが、日々の業務の中でより大局的に物事を読み取れる力や思考プロセスや意思決定プロセスの見える化、特に意思決定という表に出ている行動の裏にある本質とは何か?といった部分で、インテグラートに興味をもったところから入社を決めました。
 弊社の基本的な考え方である「仮説指向計画法(Discovery-Driven-Planning、DDP)」に関しては新鮮で学ぶところが多くある一方で、将来予測の際に不確実な変数に確率的に幅を持たせて分析を行う考え方や、新しくデータが上がった際に定期的に元の予測を更新し、その差分に関して検討すること等、前職の業務の中でも馴染み深い部分もあります。今までの経験を最大限活かしつつ、より多くを学び皆様のお役に立てるよう精進してまいります。今後ともよろしくお願い致します。

 さて、前段が長くなってしまいましたが、本コラムでは「模倣」について「模倣の経営学偉大なる会社はマネから生まれる」(※1)を参考に話を進めていきます。

 まず、皆様は「模倣」と聞くとどのような印象をお持ちになりますか?本の中にもありますが、欧米での“Copycat”、日本での「猿真似」という言葉も存在するように、一般的にはどちらかというとネガティブなイメージが強いように思います。この理由については本の中でも軽く触れていますが、要は、模倣される側からすると、より短い時間で楽に追いつかれる、自身が取ったものよりも低いリスクで同じような結果を得ることができてしまう、そもそも独自の優位性が崩れてしまう、といったように模倣者に対して脅威を感じてしまうといったところがあるように思います。

 一方で、お手本を丸写しすることは芸術・スポーツ・勉学などの様々な分野で学習の基本として尊ばれていることも事実であり、「模倣は、独自性や創造性を求める際に不可欠な活動だとされ、慎重に、模倣対象を選ぶように奨励された(*1)」とも書かれています。
 この本では、ことビジネスの世界に関しても、「他社からは、なかなか模倣できない仕組みであっても、調べてみると、その仕組みは大なり小なり模倣によって築かれているものだ。模倣できない仕組みが模倣によって築かれるという「模倣のパラドックス」である。」と始まり、「模倣は知的な行為」として、セブンイレブンやトヨタ、ジョンソン&ジョンソン、クロネコヤマトやグラミン銀行に至るまで様々な分野における模倣によるイノベーションを実例に出しながら議論が進められています。また有名な話ではありますが、アップル創業者の故スティーブ・ジョブズ氏も模倣について肯定的で「素晴らしいアイデアを盗むことに我々は恥を感じてこなかった」とも話しています。(※2)

 このような実例を知ると感心すると同時に、もしこれらの事例のような結果を求めて模倣を選択する際に、では「何をどのように模倣すべきか」という疑問が生まれます。この問いに対して、各々の具体例やフレームワークなどは本に預けるとして、ここではこの本の中で模倣対象に関してポイントであると考える「1)模倣の2つのレベル」「2)模倣の4つのパターン」、の2点について紹介させていただきます。

1)模倣の2つのレベル
 模倣には、製品レベルの模倣と仕組レベルでの模倣、があるとしています。製品レベルでの模倣は、インターネットの発達によってペースが早まったとされ、例えば、写真の模倣には30年物歳月が必要とされましたが、コンパクトディスクの模倣には3年しか必要とされていないようです。そのため、本当の意味での差をつけるには、仕組レベルでの模倣、が必要と指摘しています。確かに、製品レベルの模倣は分かりやすいためしばしば目が行きがちですが、模倣のスピードが速いため、製品レベルでイノベーションを引き起こしてもすぐに追いつかれてしまうことは、読者の皆様も日々の実務の中でも感じるところではないでしょうか。本書の中では模倣製品が次々と出る飲料業界の中で、UCCとコカ・コーラが比較されています。1989年の時点では缶コーヒー消費者の8~9割がUCCのブランドを好んでいたと示し、製品の差別有意という意味ではUCCが圧倒的な勝利を収めていたのですが、売れ行きの面では当時からコカ・コーラが圧倒的な勝利を収めていたようです。その理由として、コカ・コーラは全国に自動販売機網を整備していたことを大きな理由の一つに挙げています。自販機の台数は1989年時点でコカ・コーラの70万台に対してUCCは16万台。消費者の手への届きやすさが歴然と違ってきます。この自動販売機網のような仕組みは製品の差別化とは違い一朝一夕にマネすることができるようなものではないので、この点で競争優位が長続きする、とまとめています。本書では仕組レベルの模倣の意義を「一度基盤を固めると、ライバルからはなかなか切り崩されないということである。」としていますが 、これは上記の例からも理解しやすいように思います。

2)模倣の4つのパターン
 誰からどう倣うか?は「社外(他者)?社内(自己)」「肯定?否定」の2軸、計4つのパターンで示されています。異業種や海外あるいは過去にヒントを求め、共通性を探しながらお手本とする1)単純模倣(社外、肯定)、同業種のビジネスの逆を突くことによってアイデアを生み出す2)反面教師(社外、否定)、加えて、肯定的・否定的の切り口は同じですが、倣う相手が社外ではなく自社とする3)横展開(社内、肯定)、4)自己否定(社内、否定)に分けられています。
 “肯定的な模倣(共通性からの本質の模索)”の留意点として、対象と自身の事業モデルの事業環境や社会構造といった脈絡の共通性が重要であるということが挙げられています。例えばLCCの原型でもある米国のサウスウェストを欧州のライアンエアが単純模倣して大成功したのは、EU域内では航空市場が統合されていたため国際線を飛ばす際に他社とアライアンスを結ぶことなく都市間を直接つなぐことが可能でした。加えて、政治経済が地方分権的で地方空港が多かったことやインターネットインフラの環境も米国と類似していたため、同様のシステムを導入できたとされています。また、社内に模倣対象を求める場合については、情報の得やすさ、というメリットはあるが、一方で近いがゆえに社内の部署・人間関係といった心理的な抵抗が自身の現状をフラットに判断することを難しくする場合もあると指摘されています。

 私自身の見解になってしまいますが、「何をどのように模倣すべきか」を考えるにあたり、上記の視点は重要であるが、実のところ言うは易く行うは難し、だと思います。実際に「何をどのように模倣すべきか」を考えるにあたっては、「結果として何を得たいか?」「何のために模倣するのか」そして「自分の能力・現在地はどこか」が明確であることが重要と考えます。また、この本の中には書かれていませんが、次の段階として「その模倣は適切か」を判断することが必要になり、このような「継続するか否か」の判断にも難しさがあるように思います。

 弊社では「ゴールを明確にすること」「意思決定後の継続管理」を重要と捉え、仮説指向計画法をベースとして、「我々は、何に賭けているのか?」「その仮説は、まだ生きているのか?」という2つの質問を活用して、事業の失敗を減らし、価値最大化することを目指して日々業務に取り組んでいます。

 皆様の会社ではどのような取り組みを考えておられるでしょうか。本コラムが皆様が考える際のきっかけになれば幸いです。

(今泉 昂憲)

【参考文献】
(※1)井上達彦 「模倣の経営学 偉大なる会社はマネから生まれる」日経BP社 (2012/3/8)
(※2)アップルの本質は「模倣の達人」
https://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20120313/229741/

引用文中の(*1)
Oded Shenkar, (2010) “Copycats: how smart companies use imitation to gain a strategic edge”,