はじめに
 本稿では、「良い事業計画」について考えます。
 「良い事業」と言うと、「利益率の高い事業」や「NPVの大きい事業」といった定量的な評価や「社会貢献度の高い事業」といった定性的な評価によって議論されていることを見かけます。しかし、「良い事業計画」とは何だろうかということに関しては、あまり議論されているのを見たことがないため、今回考えてみることにしました。
 本稿では、良い事業計画とは、単に定量/定性情報が羅列されたものではなく、「時間的制約のある明確な目標を掲げ、目標達成に必要な条件としての仮説と実行の土台となる情報・思考を統合可能な形で整理したもの」と結論付けました。抽象度の高い結論ですが、以下に思考したことを記載していきます。

事業計画を策定する必要性
 そもそも、なぜ事業計画を策定する必要があるのでしょうか。それは、組織的実行の促進に繋げるためです。個人で考えたことは、思考の信頼性が高いため、納得感が高まりやすく、それゆえ、実行に結びつきやすいです。しかし、個人での思考による実行を寄せ集めても、ベクトルの合った組織的な実行にはなり難いです。何を実行するかを明確にするためには、目標達成に必要な条件が仮説として明確になっていることが必要です。
 一般的に事業計画と言うと、数値の並んだExcelファイルや事業の関連情報をまとめたPowerPointファイルであると認識されることが多いです。しかし、以上のように考えたことを踏まえ、事業計画を「目標達成に必要な条件としての仮説と実行の土台となる情報を統合し、ベクトルの合った組織的な実行に繋げるために作られるもの」と定義します。
 こう考えると、事業計画は仮説を統合していくための土台であり、計画策定というのは仮説を統合していくプロセスだと捉えなおすことができます。

良い事業計画とは
 上記の定義に基づき、”良い”事業計画とは何なのか考えてみます。まず、目標が明確である必要があります。目標が明確でなければ、達成に必要な条件を検討することができません。次に、仮説を統合するには、統合可能な形に整理される必要があります。仮説が統合可能な形で整理されるということは、即ち、仮説を構成する情報と思考が統合可能な形で整理されるということです。さらに、実行に繋げるためには、時間軸の調整が必要となります。また、時間軸が実行に影響を与えますので、目標や仮説を考える際に意識しなければならず、事業計画上に表現されている必要があります。
 つまり、良い事業計画の要件として、以下の3つが考えられました。
 1.目標が定まっていること
 2.仮説の構成要素である情報と思考が統合可能な形で整理されていること
 3.時間軸が表現されていること
 以上より、良い事業計画とは、「時間的制約のある明確な目標を掲げ、目標達成に必要な条件としての仮説と実行の土台となる情報と思考を統合可能な形で整理したもの」と考えました。

さいごに
 一般的な事業計画の認識から、ExcelやWord、PowerPointでフォーマットが作られ、それを埋めて提出されているのをよく見かけます。しかし、これは良い事業計画像からすると、惜しい感じがします。Excelは数値目標とそれを算出する数式に過ぎません。また、Word、PowerPointでいくら資料を作成しても、それらに埋もれた仮説を統合して実行に結びつけられなければあまり意味がありません。
 みなさんの会社では、「事業計画」をどのように捉えているでしょうか?もし、時間ばかり取られるフォーマット埋め作業と捉えられてしまっている場合は非常にもったいないです。
 小生が事業投資関連のコンサルティングに携わった経験上、良い事業計画策定のためにコストパフォーマンスが高いと感じることは、以下2つです。

1. 自分にしかできない/分からないことを無くしていくこと
 自分にしかできない/分からないことが増えるということは、リスクを個人で抱え込んでいるということです。リスクを個人で抱え込むと、適切な打ち手を打つ検討が遅れます。
 それが顕著に表れるのが、Excelでの収支計算表です。これまで、複雑な関数を使った計算式を見て、眉間にしわを寄せた方も多いのではないでしょうか。実はこれは、皆さんが不機嫌になるということ以上に悪影響を及ぼします。(※1)
 計算式が複雑になるのは、一つのセルですべてを表現しようとし過ぎるからです。自分の頭ですっきり理解できていないと、複雑になりやすいです(四則演算のみで構成されることが理想です)。複雑な関数を使った計算式などは、言葉で説明された方が簡単に理解できることが多いです(IF文などを思い浮かべてみてください)。

2. 視覚的に表現すること
 先述のように、計画策定というのは仮説を統合していくプロセスと捉えると、分かるように共有することが必須となります。例えば、Excelの収支計算表は、事業の収支構造を視覚化した構造図として手描きやPowerPointに描くと、理解・共有が格段に容易になり、議論・検討が捗ります。あるいは、各所から集められたデータや文章もグラフやスライドに整理された形で視覚的に表現すると理解が進むことは想像に難くないと思います。

 「考えたことを誰にでも分かるように、視覚的に表現していく。」これらを突き詰めていくと、もしかしたら将来の事業計画は映像になるのかもしれません。そんな良い事業計画がつくられる未来が来ると良いなと思います。

(松下 航)

※1 Excelが複雑化・属人化することの実害についてご関心のある方はこちらをご参照ください
日本CFO協会のCFO FORUM記事「経理マネージャーの本音 スプレッドシートの悪夢」
http://forum.cfo.jp/?p=8169