2019年5月にエグゼクティブコンサルタントとしてインテグラートに参画しました池側千絵と申します。いくつかの外資系企業のファイナンス部門で勤務し、2社で子会社のCFOを務めました。外資系企業のファイナンス部門は、経営企画・経営管理・経理財務を包括的に担当する部門です。インテグラートで日本企業の経営支援を行うにあたり、欧米企業のよいところをご紹介し、経営企画・経理財務部門の機能強化のお手伝いをしたいと考えております。

 経企(経営企画室)といえば、会社の中でも優秀な人たちが集まる少数精鋭のエリート集団と呼ばれています。経営企画室の具体的な位置付けや業務は企業によって異なるものの、概ね社長直下に置かれ、役員の集まる重要な経営会議をとりまとめ、会社組織の横断的な情報収集や意思決定のかじ取りを行う部署であり、会社の重要情報はすべてここに集まります。

 実はこの部署は、欧米企業にはない、日本特有のものだということをご存じでしょうか。日本特有だからいいとか悪いということはありませんが、日本企業のグローバル化が当たり前になっている中、欧米のグローバル企業の組織構造を知り、日本企業の経営企画室はどうあるべきか、さらに価値を生むにはどうしたらいいかを検討してみてはいかがでしょうか。

 日本企業の経営企画室の一般的な役割として、企業の戦略立案、中長期の経営計画作成、単年度予算策定や管理、事業への投資などの承認案件の取りまとめなどの経営管理・管理会計業務があります。経営企画室には、このほかにも社長の補佐や、人事・総務・IT分野などのさまざまの業務がありますが、このコラムでは、これらの経営管理・管理会計業務について、考えていきたいと思います。

 欧米企業にももちろん上記のような業務はありますが、“企画室”という独立した部署がないのは、”企画的業務“が、各専門部署内で行われているからです。社長(CEO)の下に、各専門分野のCXOがいます。例えば、ファイナンス(CFO, Chief Financial Officer),人事(CHRO, Chief Human Resource Officer)、マーケティング(CMO, Chief Marketing Officer)、営業、サプライチェーン、ITなどの各専門分野に役員がいます。オペレーション(COO)部がある場合もあります。そのそれぞれの部門で”企画的業務“を行います。たとえば経営管理・財務的課題であればCFOがリード、人事・組織的課題であればCHROがリードするなどし、各部門役員が適宜相談しながら、最終決定は、経営陣全体で全体最適を考えて行います。つまり、各役員 (CXO) が企業の通常運営に加えて、中長期の戦略立案、事業投資なども自ら行うので、日本企業の経企のような、全社横断的な企画部門を独立させて持つ必要がないのです。

 日本企業の経企の業務のうち経営管理・管理会計業務は、欧米企業においては、CFO組織の中にあり、FP&A(Financial Planning & Analysis)と呼ばれます。FP&Aに従事する者をコントローラーとも言います。コントローラーは、通常、大学や大学院で会計(財務会計と管理会計の両方)、ファイナンス、経営学を学んだ者や、MBA修了者、公認会計士がなることが多いようです。会計等の専門知識を備えたうえで、会社の事業を理解し、会社全体や事業単位の業績目標達成や意思決定において支援をします。そのため、よいFP&A担当者になるには、会計・コーポレートファイナンス・経営学の知識・経験と、その会社の事業に関する深い知識・経験が必要になります。それらを持った上で、経営陣の戦略策定や意思決定によりそって、時には苦言を呈し、目標を上回る成果を出すためのアドバイスをできるようにします。また、事業部で目標や事業計画を実行する人たちに寄り添い、日々の活動を正しい方向に導きます。そうして、経営陣・事業部などのビジネスパートナーとして価値を生む経営企画室を目指すことができるようになります。

 実は、日本でも1950年代に、通産省によってアメリカ企業のコントローラー制度の導入が試みられ、経理財務部門にコントローラー機能を持たせるという案もありました。しかし、さまざまな議論の末実現せず、日本では、経営企画部門が独立してコントローラー機能を果たす(会計機能は持たない)方向性が生まれたそうです。その背景としては、経理部とは別に経営参謀本部が必要であるという主張があり、自己資本の蓄積が大きかったアメリカ企業に対して、借入金依存度が高い日本企業では財務機能が重要なので、経理財務部門を独立させる必要があった、という説などがあります(石川,2014)。

 欧米企業のコントローラー制度の特徴として、事業部や、マーケティング・営業・研究開発などの各部門に、管理会計の専門家であるコントローラーが配置されており、各部門の業績目標達成と意思決定を支援する管理会計業務を担い、本社のCFOにレポートすることが挙げられます。一方、一般的な日本企業では、そのようなコントローラーはおらず、各事業部・部門に属する”事業企画“によって、同様の管理会計業務が行われています。そもそも日本企業は職種別採用を行わないことが多く、部署をまたいだ異動も頻繁にあるので、専門家の育成が難しいのかもしれません。部門・職種間の役割分担が欧米企業ほどはっきりしていないことや、終身雇用制度などが影響しているのかもしれません。

 今まで、経営企画室の存在を含め、日本企業の経営管理・管理会計業務を行う組織の、欧米企業との違いについて述べてきました。欧米企業のそれに比べてよい点と課題をあげ、それに対する対策を考えたいと思います。

1. 経営企画室メンバーの専門知識と事業知識のバランス

 経営企画室には、様々な部署の優秀な人材が集められているので、事業に詳しく、各部署との関係も深く、会社に対するコミットメントや士気も高いことでしょう。部員同志のそれぞれの強みを生かし、学びあうことで、さらに成果の質を高めることができます。これは、日本企業の組織の強みです。先に述べましたが、欧米企業で管理会計業務を行っているFP&Aの人たちは、事業部にコントローラーとして配置されることによって事業知識を得ますが、実際に事業部の人になるわけではないので、どこまで深く入り込めるかという意味では限界があります。事業部で活躍した人が日本企業の経営企画室にいるというのは、組織の強みになるのです。

 その一方で、専門知識の習得には課題があります。経営企画室の主要な業務として中期経営計画策定や予算管理を担当しているので、メンバーは管理会計等の専門知識を持っていることが望ましいとされますが、必ずしもそうなってはおりません。日本企業では数字を扱うにはまず“簿記”を勉強しろと言われることも多いようですが、簿記は財務会計の入り口であり、管理会計業務を担当するためには、まだまだ先があります。管理会計は、事業の業績を管理してその目標達成と財務的意思決定を支援するための会計です。そのためには正しい会計知識(財務会計と管理会計)、コーポレートファイナンスの知識、経営学の知識も必要です。そういった知識の取得のためにMBAや中小企業診断士の勉強をしている方もすでに多数いらっしゃいます。それが無理でも、MBAや管理会計の教科書を読んで、必要なところを理解して実践するとよいでしょう。欧米には管理会計士の資格や協会があり、企業内で管理会計業務を担当する人たちが参加しているようです。そこではすでに述べた業務に必要な知識に加えて、効果的な仕事のしかたやキャリアの積み方に関するノウハウが多数まとめられています。(IMA,CGMA,ICAEWなどがありますが、ここでは紹介しきれませんので、関心のある方は、ご連絡いただけると幸いです)。

 経営企画室が経営管理・管理会計業務を行うにあたり、専門知識とその企業の事業知識の両方が必要だという話をしました。両方に秀でることは簡単なことではありませんが、十分可能です。経営企画室に来るまでに事業部で活躍した方は、その企業の事業に必要なことを具体的に理解しているので、より早く効率よく専門知識を身に着けることができます。財務会計には詳しいが事業にはそれまであまり触れていない経理財務の方が経企に配属になった場合には、財務会計を知っているのは大きなアドバンテージであることを認識した上で、ファイナンス、経営学、事業知識の習得に邁進していただきたいです。

2.経営企画室の組織内での立場

 経営企画室は社長直下で会社全体を見渡す立場にあり、各事業部・各部門の思惑に流されず、全体最適を公平な立場で考えて業務に当たれるというメリットがあるでしょう。

 一方で、経営企画室が、CFOなどほかの役員の組織に入っていない場合は、経企が情報をリクエストする事業部の予算・経費担当者・事業企画などは別組織であるため、現場の事業の状況が分かりにくいとか、情報収集がしにくいということがあるようです。現在までの日本企業であれば、基本的には終身雇用なので、レポートラインがなくても、長い付き合いでスムーズに情報をもらうことはできたのでしょう。しかし、はっきりした報告関係がない場合、どこまで手の内を見せて報告をしたらいいのか、忙しい中どのくらいの優先順位で業務にあたればいいのか、事業部の報告者は判断に悩むのではないでしょうか。報告を受ける際にストレスを感じる経営企画室の方もいるのではないでしょうか。経営企画室が、事業部が提案する事業投資の評価をするにしても、十分な情報が得られないとなると、判断が難しいと感じる場合もあるでしょう。

 昨今は、日本企業でもCFOポジションを置き、社長の右腕として、経理財務に加えて、戦略策定や経営管理に責任を持たせる企業が増えています。CFOは、経理財務出身の方がなられることも、経営企画出身の方がなられることもあり、会社の状況によるようです。そのような職責のCFOが置かれる場合は、欧米企業のように経営企画室をCFO傘下に置く企業もあるようです。メリットとしては、財務会計と管理会計を担当する組織が上部で統合され、コミュニケーションが円滑になったり人事異動や人材育成がしやすくなり、業務の精度や効率性がよくなります。また、事業部で管理会計を担当する事業企画の人たちもCFO,経営企画部に正式にレポートするようにして、報告責任を明確化させると、コミュニケーションが円滑になり、仕事がしやすくなると思います。この場合、経営企画室は、先ほど述べた、全体最適を考える目を持ち続ける必要があることは、言うまでもありません。欧米企業ではこのような組織体制が多くみられます。組織変更は簡単なことではないですが、中長期的には検討していただきたい。

 組織変更が難しい場合は、経営企画室が各部門・事業部を巻き込んで責務を果たせるよう、社長と役員の方々の協力が必要です。

 インテグラートでは、事業投資・事業計画の失敗を防ぐソフトウェアを開発し、その運用のコンサルティングを行っています。事業部から提案された事業計画のもととなる“仮説”を見える化し、経営陣・経営企画・経理財務などの関係者がそれらの仮説や、リスク・機会を共有して、不測の事態が起こった時の軌道修正を容易にします。事業投資・計画評価・承認プロセスの核になっている経営企画室のみなさんが業務遂行をしやすい体制づくりの支援も行っていますので、お悩みの際はご連絡いただければ幸いです。

(池側 千絵)

参考資料:
石川潔. (2014). わが国経営企画部門の機能の解明. 東京: 文芸社 pp.19-27