インテグラートコンサルタントの今泉と申します。

 最近では、設備投資や新規事業 に関して、リスクの「見える化」と、実務として回すための業務プロセス・社内運営プロセス検討について関わらせていただき、学びの多い日々を送っています。

 さて、「見える化」という言葉は、馴染みのある方が多いと思います。
 私もお客様と仕事をさせていただく中でも、私自身の業務を回すうえでも、意識しながら取り組んでいます。

 しかし、ふと立ち止まって、
「見える化」といってはいるが、いったい何を「見える化」しているのか?
を考えると、的確に説明するのは意外と難しいのではないかと思います。

 そんな中で『見える化 強い企業をつくる「見える」仕組み』という本を読んだときに、手段や方法ももちろん大切ですが、「見える化」とはそもそも何のためにやるのか、というその目的・前提を意識していないと、はまりがちな落とし穴があることを知りました。

 そこで今回は、「見える化」とは?から始まり、「見える化」する上ではまりがちな落とし穴と、それらにはまらないためにも、「見える化」する上で大切になる前提、そして「良い見える化とは」をご紹介させていただきつつ、少し私なりのまとめなども述べさせていただこうと思います。

 

1)そもそも「見える化」とは?

 「見える化」とは、「問題を見えるようにすること」と定義されています。

 単に、見にくいデータや、日々の業務などの進捗を、グラフなどで「ビジュアライズ」することではないのですね。

 あくまでも「見える化」は”手段”であり、”目的”は「問題解決」だということです。

 

 また、一番多い勘違いとして、様々な情報をオープンにさえすれば「見える化」が達成されると思っていることです。

 一般的な情報共有は相手が「見よう」という意思を持っていることが大前提となっていることを忘れがちです。

 だからこそ、見える化の時のポイントは「見たくなくても、目に飛び込んできてしまう」状態を作ることだとされています。

 「見える化」というよりも、「見せる化」ですね。

 受け取る側も、「見よう」と意志を持つことが重要ですが、提供する側も「見せよう」という意思や行動が必要になってきます。

 

2)「見える化」の四つの落とし穴

 さて、「見える化」がどういうものか分かったところで、次にやりがちな失敗例として、本書より四つの落とし穴を紹介します。

①IT偏重

 今の時代、特に組織内で「見える化」を考えると、ITシステムの導入ということが頭にまず浮かぶかもしれません。

 上手くやれれば、非常に効果的ではありますが、逆にITによって「見えない化」が進んでしまうこともあるようです。

 例えば、膨大な生産管理のデータや、顧客管理データなどのデータベースを作ったとしても、「見る」意思がない人にとっては、「見えない化」を助長することにもなりかねません。

 ITによる「見える化」の多くは、「見てくれているはず」というような、無条件に期待を前提にした仕組みである場合が多い、というのは納得です。

 「見よう」という意思のある人にとっては、ITの導入は極めて有効な仕組みだが、大多数の見る意思のない人にとっては「見ない化」「見えない化」になってしまうリスクを抱えています。

 

②数値偏重

 「数値(データ)」はもちろん重要な指標ですが、数値が一人歩きするようでは大きな問題だと指摘されています。

 数値が一人歩きしないためにはどうすればいいでしょうか?

 トヨタ生産方式の生みの親である大野耐一元副社長は
「『データ』はもちろん重視するが、『事実』を一番重視している」
と話されているように、数値はあくまで「事実の一部」に過ぎないと認識することが重要となります。

 数値よりも重要なのは「生情報」という定性情報である、ということを理解しておく必要があります。

 

③生産偏重

 本書では、最も「見える化」が導入されているのは、モノづくりの現場であるとし、問題や異常が発生するのは、モノづくりの現場だけでないので、すべての職場において「見える化」を導入し徹底させることが企業全体の競争力向上のためには不可欠であると主張されています。

 私が思うに、これに関しては昨今ではデジタルマーケティングやインサイドセールスに代表されるように営業などの現場でも「見える化」が重要な問題であると認識されており、そこに対して様々なITシステムも出てきているので、生産偏重を考えることは少ないのではないかと思います。

 むしろ、一先ずシステムを入れればいいや、と考えてしまう①IT偏重に、今まで以上に気を付ける必要があるのかもしれませんね。

 

④仕組み偏重

 手法やツールがあれば、「見える化」ができるわけではない、というのは既に納得いただいていると思います。

 これは「見える化」に限らないことですが、この手法・ツールがあれば問題が解決するという「魔法の杖」のようなものは存在しないと認識することが大切だなと思います。

 

3)「見える化」する上で大切な前提

 落とし穴の④の中で書かれている概念でもありますが、非常に大切なので、別の章立てで紹介しようと思います。

 ここで言われているのは、様々なものを「見える」ようにしたところで、実際の業務に携わる人たちの、見えたものから問題点を見つける「感度」が鈍ければ、結局問題解決には至らないということです。

 いくら仕組みを整えたとしても、最終的にそれを判断して使うのは「人」であるということを忘れてはいけない、と著者は一貫して主張しています。

 一番残念なのは、仕組みを整えることが目的になり、仕組みが整った時点で満足してしまい、それが目標達成のために適切に機能するかまで見られていない場合です。

 『究極の「見える化」とは、実際に見えたものだけに頼るのではなく、「見えないものを見る」ことができる人―それを育てることである。』と最後締めくくられています。

 

 ここまでの整理として、私なりに見える化を成功させるためのポイントをまとめてみると、下図のように「やり方」+「人(習慣)」に分類できそうです。

 このうち、「やり方」は目に見えるので整えやすいですが、「人(習慣)」は目に見えないため、どれくらい出来ているかが計測しにくく、また時間もかかりそうです。

 しかし、最終的には、「見える化」された情報から問題解決に必要な要素を見つけ出すのは「人」であるため、外すことはできない重要な要素となると考えられます。

4)「よい見える化」とは

 「見える化」のポイントは分かったものの、なんでもかんでも「見える化」すればいいものではないということは想像がつきます。

 それでは、「よい見える化」とはどのようなものなのでしょうか。

 本書では、「見えれば解決する」といった単純な問題は、決して多くなく、より重要なのは、「見える」ことによって何か新たなものが「育まれる」ことであるとしています。

 「よい見える化」によって育まれる要素は「気づき」「思考」「対話」「行動」の四つ。

 これら四つの一連の影響の連鎖を誘発し、人の意識や行動を変える極めて重要な仕掛けとなるのが、「よい見える化」であり、個人レベルの行動だけでなく、組織レベルでの行動にまで影響が波及していくものでもあると書かれています。

 

 いざ考えてみると奥が深い「見える化」。

 一度立ち止まって、個人・組織レベルにおいて、「見える化」が機能しているか見渡してみてはいかがでしょうか。

 新たに「見える」ものがあるかもしれません。

 

 本稿では、数値は「事実の一部」であり、見える化すべきなのは数値ではなく「事実」であるというお話をしました。インテグラートがご支援するのは、数値のもとになっている”仮説”を用いた“リスク”の「見える化」です。

 インテグラートは、事業計画・事業投資の目標達成を飛躍的に高めるために、ITソリューションと考え方を提供することで皆様の事業計画の「見える化」と、組織内での情報の共有化をお手伝いします。

 本稿の感想なども含め、お気軽にご連絡ください。

(今泉 昂憲)