日本企業の社長室・経営企画の方々から、子会社・事業会社との関係についてよくお聞きするお悩みとして、次のようなものがあります。

・ 子会社・事業部門でなにが起こっているのかわからない。
・ 依頼した目標売上・利益が達成できそうもないと、もっと早く相談してくれたらいいのに。
・ 事業部から事業投資、設備投資計画が上がってきても、なにが数字の前提(仮説)なのか、前提がぶれたらどうなるのか、十分な議論ができていない。

 これらのお悩みの背景と、解決策について考察していきたいと思います。

 日本企業では長年、子会社の独立性を重んじて経営がなされてきました。1977年に連結会計制度が作られたものの、実際は引き続き単独決算が重視されました。本格的に連結経営管理を意識するようになったのは連結決算の開示が義務付けられた2000年3月期からということです。それまでは、子会社を作って社長を任命すると、新社長は独自の活動を開始し、独自の経理部門を持ち、親会社の保証で自ら資金繰りをし、親会社とは違う会計システムを入れるということが通常だったそうです。子会社が上場している親子上場は、日本固有の現象だということです。現在では、上場企業は連結企業グループとしてその責務を果たす必要があり、法的構造を超えてあたかもひとつの企業として活動しなければならないのですが、なかなかそうはなっていないようです。(中澤ほか 2010, 145-148)。

 一方、米国企業では、連結経営管理が主流で、19世紀末にはすでに連結財務諸表が作られていたようです(小栗 2020)。

 日本ではまだ連結経営管理を始めてから20年しかたっていないので、子会社の独立性を重んじる文化が続いているのでしょう。今でもコーポレート部門から見て、子会社・事業部門の経営に口を出しにくいということがあるようです。

 また、日本企業では、法人ごとの管理を重視するため、子会社間の取引価格の交渉にかなりの労力と時間を要してしまうことがあるようです。社内の子会社間の取引は連結後に相殺されてしまうので、米国企業では、管理会計レポートでは出てこないようにシステム上で設計されており、事業担当者の間で議論されることはありません。また、業績評価の面でも違いが見られます。日本企業では子会社ごとに、売上・利益目標を設定することがあります。子会社の売上は、同じ連結グループ内の別会社との売上であっても、それを評価指標とします。欧米企業では、業績指標は社内の会社間の取引ではなく、あくまでも会社全体の外部に対する業績目標達成に連動するものにしていますので、ここにも文化の違いが表れています(中澤他 2010, 169-173)。

 日本企業が子会社の独立性を重んじる理由として、「日本的経営」が背景にあるのでしょうか。ある管理会計の教科書(廣本ほか 2012, 19-43)では、日本企業の管理会計システムを論じる際に、その前提となる、「日本的経営」について、米国との対比と共に説明しています。

米国型経営システムは、トップが決めた「命令と統制の経営システム」である。これはSimons (1995, 80)が指摘している、米国の伝統的な経営システムのことで、1950-1960年代に展開された経営管理の基本であり、「その時代、経営管理者は部下にいかに業務を行うかを命じ、異常がないように絶えず監視して仕事の出来具合をモニターすることによりコントロールしていた」とのことです。(ただし、1995年の時点では、市場がダイナミックで競争的になっており、伝統的なコントロールシステムでは不十分で、従業員に主体性を持たせないといけないとも言っています。)

日本的経営システムは、「学習と創造の経営システム」である。経営哲学が重視され、組織文化・風土によるコントロールが重要である。エンパワメントされた(能力が開花し、権限を持たされた)従業員で構成される、自由度の高い自律的組織をもつ。組織全体の観点から業績計画が作成されたあと、現場は計画に基づいて命令・指示された仕事を行うことだけを期待されているのではなく、現場情報を反映させながら計画を具体化することが期待されている。各従業員は、組織全体の業績を達成するために、現場情報に基づいて、互いに知恵を出し合い、助け合いながら、より有効かつ効率的に作業を実施し、全体としてより良い業績を達成する。

 また、加護野ほか (1984, 8)によれば、日本的経営の要諦は「衆知を集めること」と「労使の信頼関係」であるとされています。会社内の人びとの知恵を寄せ集め、それを活用することによって、企業の強みを築き上げるという考え方です。トップから命令されて労働するのではなく、労働者が自分たちで考えながら活動しているということです。

 廣本ほか (2009, 31) によると、 日本的経営の特徴である「学習と創造の経営システム」は、不確実性が増した現代に合う“進化系”経営システムだということです。つまり、日本的経営自体は良いことのようです。一方、日本企業の経営者と経営企画部の方々から見て、冒頭で述べたような、「子会社・事業部のことがわからない」という悩みがあるのは問題です。日本企業の経営のよいところを生かしながら、課題を解決することはできないものでしょうか。

 筆者は長年、米国企業の日本子会社のファイナンス部門で勤務し、2社でCFOをつとめました。米国企業では、コーポレート部門と子会社・事業部門とのコミュニケーションが円滑です。ある米国企業の子会社の経営チームは、社長、CFO(筆者)、マーケティング責任者、営業責任者、サプライチェーン責任者、HR責任者、R&D責任者などで構成されていました。マトリックス組織なので、経営チームメンバーには、上司がそれぞれ二人います。子会社の社長が一人目の上司ですが、アジアHQに同じ部門の二人目の上司がいて、密なコミュニケーションをとります。筆者は子会社のCFOとして、上司であるアジアHQのCFOと毎月2,3度直接電話で話をして、月次決算の結果と振り返り、当月の売上・利益予測、今年度の見通し、今取り組んでいる新製品・プロモーションの状況、市場・競合の状況、ファイナンス部門の組織の状況など、話をしていました。他の経営チームのメンバーたちも同様です。アジアHQの経営チームメンバーは、同様に本社の経営チームとコミュニケーションをとります。しょっちゅう話をしていますから、本社やアジアHQからみて、「子会社でなにが起こっているのかわからない」ということはなかっただろうと思います。

 また、CFOの配下にはFP&A(Financial Planning & Analysis)という職種のプロフェッショナル人材がいて、経営チームのメンバーの配下にはいって財務目標の達成や意思決定の支援をします。FP&Aがコーポレート部門と子会社・事業部門をつなげる役目を持っています。FP&Aについては、後ほどくわしく説明します。

 日本子会社が、米国本社やアジアHQに事業投資・設備投資の申請をするときは、必ずそのプロジェクトの生み出すCash Flow やNPV(Net Present Value, 現在価値)、その数字の前提や、上下にぶれたらどうなるのか、その場合は何をするのか、などを、CFO/FP&Aが管理して、くわしくコミュニケーションをしていました。本社やアジアHQに、数字だけではなくその前提(仮説、Assumptions)をきちんと説明しておくと、実際に事業が始まって予定した数字にならなかった場合でも、あらためて説明をしなくてもすぐ理解をしてもらえ、すぐに対処するための予算や協力を得られます。コミュニケーションをしすぎて悪いことは何もありません。みんな一つの会社で働いていて、全社の売上と利益を上げることで、評価されるのですから。

 筆者が所属した米国企業では、基本的には法人格を気にせずに事業が行われていました。事業責任者には管理会計の損益レポートを渡して業績管理・意思決定の話をします。法人格は、その国の法務・税務・財務などの必要性に応じて、CFO組織が管理すればいいことです。経営管理の目的には、法人格よりも、連結ベースでの事業単位の数字が重視されていました。人事面においても、どの法人、どの国で採用されても、同等の業務にあたっていれば、同等の役職と報酬が与えられます。

 さて、日本的経営のいいところである自律的組織運営はそのままに、冒頭で述べたお悩みを解決することはできないのでしょうか?米国企業で採用されている方法にヒントがあります。

1. FP&A(Financial Planning & Analysis)を活用する
・ 米国企業では、CFO(Chief Financial Officer)は経理財務部門に加えて、FP&A(Financial Planning & Analysis)部門も配下に持っています。FP&Aはコーポレート部門の経営企画にあたる機能の他、子会社・事業部門・機能部門(営業・開発、サプライチェーンなど)にも配置されていて、企業の事業活動を行う各部門に入り込み、業績目標達成や意思決定の支援をします。CFOは過去・現在・未来にわたり、会計数値に関して責任を持ち、経営陣の一人として企業に貢献します(昆ほか 2020, 23-29)。

・ 日本企業では、過去と現在の財務情報を管理する経理財務部門と中長期・将来の計画を管理する経営企画部門(コーポレート部門のFP&A)が別々に存在します。また、それらの部署はコーポレート部門にあり、子会社・事業部と連携していない場合が多いようです。経理財務部門と経営企画部門を統合して、さらに子会社・事業部にもその配下の人材(事業部FP&A)を置き、チームで会社全体の経営管理・事業管理を行える体制を構築してはいかがでしょうか。

・ 子会社・事業部に配置された事業部FP&Aは、経理財務の知識に加え、コーポレートファイナンス、戦略策定なども学び、さらに事業の中身もわかる人材です。子会社の社長や事業責任者、プロジェクトチームの近くに席を置いて、重要な会議に出席し、チームの業績目標達成や意思決定の支援をします。FP&Aは、コーポレート部門のCFOやFP&A(経営企画)にもレポートし、まめに子会社・事業部門の状況を報告するので、CFO・経営企画から見て、子会社・事業部門のことがさっぱりわからない、ということはありません。

2. 仮説指向計画法を実践する
・ インテグラートがお勧めしている仮説指向計画法は、米国企業で長年勤務していた筆者からみると、普通に米国企業が実践している経営手法です。子会社の経営チームが、事業計画、投資計画を上層部に提案する際に、数字と共にその前提(仮説・Assumptions)を説明し、その前提が外れたら計画はどうなるのか、そのときはどう対処するのか、を詳しく説明・議論するのが通常です。もちろん、日本企業でもそうされている場合は多いと思います。ただし、前述のように、子会社・事業部門の自律性を重んじるばかりに、本社の社長や経営企画が、数字のもとになる前提(仮説)について質問できない、という企業もあるようです。自律性を重んじることはそのままにしたとしても、健全なコミュニケーションは実施するべきです。

 日本的経営のいいところを生かしながら、コーポレート部門と子会社・事業部門のコミュニケーションを円滑にしながら、事業計画・事業投資の成功確率を高めていくためには、1(FP&A)と2(仮説指向計画法)の両方を活用することをおすすめします。FP&Aが組織のすみずみに配置されて、数字とその背景にある前提(仮説・Assumption)をきちんと管理することによって、仮説のはずれに迅速に対処して、関連する部署を巻き込んで議論し、組織の目標達成を確実なものにしていくことができます。

 また、1で述べた、経理財務・経営企画の組織の統合、FP&Aの活用ができると、他にもいいことがたくさんあります。

・ 財務会計と管理会計のレポートの統合と、管理会計情報の充実:日本企業の経営者・財務責任者は、法人ごとの財務会計決算を重視してシステム構築をするため、管理会計用に組織別、商品別などのレポートを作るのは、財務会計の決算が終わってから手作業で作成する、というケースが多いということです。会社によっては、法人ごとの損益はわかっても商品ごとの損益はわからない、という事態に陥っている場合もあります(デロイトトーマツグループ 2018, 69-72)。一方、筆者が勤務した米国企業では、会計システムは財務会計と管理会計のレポートが同時に出るようにプロフィットセンター、コストセンター等をはじめからセットして、経営管理に必要な管理会計のレポートを早く使えるようにしていました。

・ 中長期計画と単年度計画、計画と進捗管理の統合: 日本企業では戦略策定・中長期計画は社長室・経営企画部門が担当、単年度予算管理と実績管理は経理財務部門が担当するケースがあります。連携はしていますが、別々の部門なので、中長期計画と単年度計画がつながっていなかったり、計画の前提がはっきりしないまま進捗管理をすることになったりします(デロイトトーマツグループ 2018, 72-75)。CFOの下で経理財務部門と経営企画部門を統合することで、中長期計画、単年度予算と進捗管理を同一組織で行うことができるようになり、肝心の業績目標達成がやりやすくなります。

 以上、日本企業の経営管理について、よくお聞きする課題について考察してまいりました。米国企業での勤務経験がある者から見れば、日本企業の経営管理を見て違う点がたくさんありますが、歴史的背景や文化を知ると、その理由もわかってきます。ここで参考にした文献の多くは10年以上前に書かれたものですが、今でも変わっていないことが多いと思います。日本企業で勤務されている方にとっては当たり前のことであっても、他の国の経営管理手法と比較すると、気づきがあるのではないでしょうか。ぜひ他国のいいところを取り入れていただきたいと思います。

(池側 千絵)

お知らせ:
FP&Aは、欧米ではCFO部門の中のプロフェッショナルとして確立されており、どの企業でも活躍できる職種です。筆者は一般社団法人日本CFO協会の主任研究委員として、日本企業において「業績向上に貢献するFP&A機能を強化する」活動に参画しています。同協会で2020年5月から開始されているFP&A研修やイベントに連動する形で、日本企業の経営企画・計数管理をされている方々向けのアンケートを行っていますので、ご関心のある方はご協力ください。連絡先を記入いただければ、調査結果を報告させていただきます。よろしくお願いいたします。
「業績への貢献に向けたFP&A機能(経営企画/管理会計)における現状と課題」調査

参考文献:
小栗 崇資. 2020. 「連結会計・単体会計の分離の歴史と構造」. 『駒沢大学経済学論集』. 51(3): 3-21.
加護野 忠男・関西生産性本部. 1984. 『ミドルが書いた日本の経営: 和英対訳 』. 東京: 日本経済新聞社.
昆 政彦・大矢 俊樹・石橋 善一郎. 2020. 『CFO最先端を行く経営管理 』. 東京: 中央経済社.
デロイトトーマツグループ. 2018. 『実践CFO経営: これからの経理財務部門における役割と実務 』. 東京: 日本能率協会マネジメントセンター.
中澤 進・石田 正・金児 昭. 2010. 『包括利益経営: IFRSが迫る投資家視点の経営改革 』. 東京: 日経BP社.
廣本 敏郎・河田 信. 2009. 『自律的組織の経営システム: 日本的経営の叡智 』. 東京: 森山書店.
廣本 敏郎・加登 豊・岡野 浩・吉田 栄介・伊藤 克容・三矢 裕・澤邉 紀生・梶原 武久・椎葉 淳. 2012. 『日本企業の管理会計システム (Vol. 第12巻)』: 中央経済社.
Simons, R. 1995. Control in an Age of Empowerment. Harvard Business Rebiew, 73 (2): 80-88