皆様は直近1週間で、合計で何時間の会議を行いましたでしょうか?最近行った会議は、いずれも十分な成果を得ることができ、参加者全員のやる気が高まっていましたでしょうか?
 会議の司会をしたことがある人は誰もが「結論を出せたような、出せかったような・・・」とか、「この会議もっと短くできたんじゃないか」等の課題を感じたことがあるのではないかと思います。
 本コラムでは、ミーティングに関する研究の功績が認められドイツの栄誉ある賞の一つであるフンボルト賞を授与された、スティーブン・G・ロゲルバーグ氏の著書「SUPER MTG」と漆原次郎氏の著書「日産 驚異の会議 改革の10年が生み落としたノウハウ」、榊巻亮氏の著書「世界で一番やさしい会議の教科書 実践編」を参考に会議をより良くすることの重要性とその方法を紹介します。

・会議をより良くすることの重要性
 冒頭の質問に戻りますが、皆様は1週間でどのくらい会議をしていますでしょうか?ロゲルバーグ氏によると、役職についていない平社員で平均8回/週、マネジャー職になると12回/週に増加し、CEOになると労働時間の60%ほどを会議に費やしていると紹介されています。また、同氏の試算によると、人件費の15%が会議に費やされているそうです。
 しかし、多くの時間を会議に費やしているにもかかわらず、全世界で69%の人が会議は非生産的だと考えていることが紹介されています。それに加え、非生産的な会議に参加した社員は、やる気を失う、不満を募らせる、会社への忠誠心や帰属意識が低下するといった傾向があり、これらの間接的なコストも無視できないことが指摘されています。

・会議をより良くする方法
 それでは、良い会議とは、どのような会議でしょうか?私は良い会議は以下の3つの条件に分解できると考えています。

条件①成果が出ること
 会議によって成果は様々あると思いますが、まずは、成果が出ることは良い会議の必須条件と考えます。情報共有の会議なのに時間切れで共有しきれない、とか、何かを決めるための会議なのに結論が出ない、といったことを望む人はいないはずです。

条件②関係者のやる気が高まること
 成果が同じであったとしても、そこに至る過程でやる気を下げる関係者がいては良い会議とは言えないでしょう。例えば全員が納得して出た結論と、一部の人が強引に出した結論が同じだったとしても、後者は関係者のやる気を下げてしまい、会議後に決定事項を実行する際の質を下げることに繋がってしまうと考えられます。

条件③かかる延べ時間が短いこと
 同じ成果が達成され、関係者のやる気も同じ水準なのであれば、会議にかける延べ時間(時間×人数)は短い方が望ましいでしょう。

 上記の3つの条件をクリアするための方法について、参考とした3冊より4つの方法をご紹介します。

1.会議の目標を明確に設定する
 こちらは3冊全てに書かれていた内容です。目標が明確でないと、参加者によって発言の方向性や粒度にばらつきが出てしまい、①②③の全ての条件に悪影響を与えるでしょう。また、目標を明確にする際の注意点として、漆原氏は「~について情報を共有すること」や「~について議論すること」のような本来手段であることを目標にするべきではないと述べています。これは一見すると問題ないように見えますが、実は達成条件があいまいなためです。良い目標としては「~について情報を共有し、お客様に説明できるようになること」や「~について議論し、お客様への説明資料が完成すること」のように人に変化を起こしたり、何かが出来上がったりするような、より具体的な内容まで考えることで参加者同士の認識のばらつきをより小さくすることができるでしょう。

2.想定よりも短い時間を設定する
 こちらはロゲルバーグ氏の内容です。目標を達成するためにかかりそうな時間に対して、5~10%ほど短い時間で終わるようにアジェンダの時間設定をするというものです。同氏の著書では「ある作業にかかる時間は、その作業のために使える時間と等しくなる」というパーキンソンの法則が紹介され、短い時間しか与えられなければ、参加者の集中力が高まり効率が上がるという利点と、時間が延びることが減り、参加者のやる気を下げにくくなると指摘されています。

3.決めたい議題がある会議の参加人数は7人まで
 こちらもロゲルバーグ氏の内容です。会議の参加者が7人を超えると、1人増えるごとに効果的な決断力が10%ずつ低下するという研究結果が紹介されています。参加者は会議の議題を決めるにあたり、本当に必要な人に限り、7人程度に抑えることが①の条件の達成に寄与するということです。また、参加人数が減ればその分③の条件も達成されるでしょう。しかし、注意点として同氏は、会議に呼ばれなかった関係者のやる気が低下しないよう配慮することの必要性も指摘しており、呼ばない人に対しては、会議のアジェンダについて事前に意見をもらうことや、会議後に結果を情報共有するべきと述べています。
 また、参加者について漆原氏は、日産自動車では意思決定者は会議の始まりと終わりしか同席しない方法を採用していると紹介しています。この方法は、メリットとデメリットの両面があるが、日産自動車では、意思決定者の時間を抑えることの難しさや、意思決定者が発言すると他の参加者の発言に影響してしまうこと、意思決定者は話の引き出しが多いために、議題から脱線したり、あらかじめ決めていた議題を拡散させたりする傾向にあることから、メリットの方が大きいと判断しているようです。

4.書記のスピードに合わせて議論する
 こちらは榊巻氏の内容です。まず、前提として、会議には書記を置き、参加者全員が見える位置に議論の内容を記載することを推奨しています。そして、人は書くスピードよりも話すスピードの方が速いため、話し手が書記に配慮をしなければ、議論を正確に記載することができなくなります。ここで、書記のスピードに合わせてしまうと議論が中断され、効率が悪くなるのではないかという疑問を持つ方もいらっしゃるかと思いますが、同氏は、書いている数秒を待つ間に思考が整理されて発言がクリアになることや、書きやすいように発言を整理しようとすることで、かえって良い効果を生み出す場合が多いと指摘しています。この方法を実践すれば、会議の発言の全てについて要点が可視化され、議論の手戻りを防ぐ効果や、議論の論点がかみ合っていない状況を避けることに繋がり、①②の条件の達成に寄与すると考えます。

・実現に向けて
 上記の4つの方法を実現できれば、会議はきっとより良いものになると思います。しかし、会議とは1人で実施するものではないため、参加者の1人が何かを変えようと思ってもなかなか変えることは難しいでしょう。また、業界や業種、会社や部署ごとに良い会議が違う場合もあると思います。本コラムが、皆様にとって良い会議はどのようなものかを組織的に検討する一助となれば幸いです。

(高木 一道)

参考文献
スティーブン・G・ロゲルバーグ「SUPER MTG」サンマーク出版
漆原次郎「日産 驚異の会議 改革の10年が生み落としたノウハウ」東洋経済新報社
榊巻亮氏の著書「世界で一番やさしい会議の教科書 実践編」日経BP社