みなさん、こんにちは。インテグラート株式会社コンサルタントの今泉です。

 世界No.1のエアコンメーカーのダイキン(※1にて、33年間ブランディングに従事してきた片山 義丈さんが書いたコラム(全8回)
「ブランドなんか大嫌いなブランド担当者が33年かかって、たどり着いたブランド論(※2」
を読んだところ、内容はブランドづくりについてですが、いろいろとハッとさせられ、事業を進める中にも通じるものがあるなと思ったので、紹介させていただきます。

本コラムからの結論と主な学びは以下です。
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◇結論
 “わかったつもり”で進めると、目指すべき場所、そのための手段に対する認識のずれがおこるため、最終的に事業としての損失につながっていく。“わかるため”の説明ができるように「省略」されているものを認識、理解、共有していくことが重要である。

◆学び(1)【定義は明確か?(わかったつもりになっていませんか?)】
①事業の「成功」の定義は明確か。
②今使おうとしている方法論や考え方、または統計などの情報や、事業部から上がってくる数値など、「省略」されているもの(背景や前提)を把握しているか。
→「省略」の認識がずれると誤った判断に繋がる。
→“わかったつもり”で留まらず、聞いたことを自分で説明できるように「なぜそれを選んだのか」を押さえることで、チーム内、部署間などでの認識のずれを防ぐことができる。

◆学び(2)【目的は明確か?(わかったつもりになっていませんか?)】
事業の「成功」の定義が明確で、そこに向かうために具体的に何をすればいいかが分かるレベルまで目的を分解できているか?(目的が曖昧だと分解できない)
→一度計画で決まったとたん、まずは事業立ち上げることが目的になっていませんか?
→なぜその事業をやることになったのか?を明確にして、共有しながら進めることが重要。
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 このような学びを得た部分について、以下で紹介していきます。

 片山氏のコラムは、「世の中の、いわゆる“ブランド論”を一生懸命とりいれても、なぜうまくブランディングができないのだろうか?」という問題意識から始まります。

 その中で片山氏が出した結論が以下です。

“ブランドを
あいまいな定義で(なんなのか誰もわからないブランドというものを)
あいまいな目的で(もしくは間違った目的で)
つくろうとしているからです。
そうです。そもそも、できるはずがない。“

 結論だけ見ると、そんなこともできてないのか?と思ってしまうかもしれません。
 問題は、上のような結論に気づいていないこと。

◆学び(1)【定義は明確か?(わかったつもりになっていませんか?)】
 定義については特に以下のように話されています。

“ブランドをつくらないといけないはずなのに、賢そうな言葉で、難しそうな単語で、なんだかんだと説明されてそれを聞くと、なんとなく理解したつもりになっているけど、ふわっとしていて、よくわからない。
だから『ブランド』をつくるということが、突きつめて言い換えると『よくわからない何か』をつくることになっているのです。
よくわからないものを、つくることなどできるはずがありません。“

 また、個々人では「わかっている」という人に対しては、以下のように言及しています。

“ブランドづくりはひとりではできません。いろいろな関係者の協力が必要です。自分が定義しているだけで、チーム内のすべてのメンバーに共通の定義がなかったり、単語としては共有していても、メンバーがその意味がよくわかっていなければ、ブランドなどつくれるはずがありません。”

 「ブランド」を「事業」に置き換えて読むと、少しずつ自分事になる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 では、なぜ定義があいまいになってしまうのでしょうか?

 そのために、まず向き合うべきことが「我々のブランドはスーパースターではなく凡人である」ということだと片山氏は主張しています。

 なかなか衝撃的な言葉ですが、同時に「なるほどな」と思う部分もあります。
 例えば、芸能人とイチ一般人では、持っているものも違えば、どう対外的にアピールすべきかも違ってくるのと同じです。(自己分析、現状把握をして、まずはそれを受け入れることが重要ですね。)

 世の中にあるブランド論は、グローバルにはアップル、NIKE、スターバックスといった「スーパースター」の後追いをして、共通することを整理したもの。

 「スーパースター」と呼べる企業が世の中の何%になるかはわかりませんが、恐らく世の中の大多数は「スーパースター」と明言することは難しいのではないでしょうか。

 このように、そもそも今自分が使おうとしている方法論や考え方の説明で省略されているものを見落とすと、実際に使った際に全然上手くいかないということが起こりがちです。

 コラムの中では「人間について」の説明で分かりやすく示されています。
人間について
A:人間は必ず死ぬ。
B:人間は自転車に乗ることができる。
C:人間は、宇宙飛行士になれる。

 どうでしょう?
 すべて「人間についての説明」として正しい、間違いではない。

 だだ、正確に表現すると、A・B・Cには省略があります。

 省略した言葉を補ってみます。

A:(全ての)人間は必ず死ぬ。
B:(ほとんどの)人間は自転車に乗ることができる。
C:(すばらしい才能に恵まれた)人間は、宇宙飛行士になれる。

 となります。

 別の例です。

A:(100%)人間は必ず死ぬ。
B:(ほどんどの)人間は日々生活するだけのお金を稼いでいる。
C:(本当にごくわずかな)人間は、年収が10億円以上ある。

 これも、「人間についての説明」では何も間違いではありません。

 ただ省略して説明すると
 人間は年収が10億円以上ある、となります。

・・・
 このように省略していることに気づかなければ、正しくない結論が導き出されてしまうことになります。

 すごく当たり前のことのようで、この省略部分を把握せずに何となくの理解でモノゴトを進めてしまっていることありませんか。
 私は読んだ瞬間、ギクッとさせられました。

 そして、このように、目指すものの定義があいまいになった時に起こりがちなことが、「手段が目的になる」ということです。

◆学び(2)【目的は明確か?(わかったつもりになっていませんか?)】
 何事もそうですが、目的を達成するために手段を選ぶことが重要です。
 (手段から入ってもうまくいく場合もありますが、恐らくその場合は、その手段が効果的である外部環境が元々ある場合がほとんどではないでしょうか?(一昔前のITバブルなど))

 しかし、この目的は日々忙しくしていると頭から抜けがち。

 普段の個々人の業務においても、そして大きな投資が伴う事業においても、気がつくと、目の前の〆切に追われたり、まずは稟議を通すための数字づくりになっていたりしがち、ということには、皆さんも「そうだよな」と納得していただけるのではないでしょうか。

 ここについても、片山氏のコラム内では以下のように示されています。
 (ここでも、「ブランド」を「事業」に置き換えて読んでいただくと、ハッとさせられます)

“本来は、ある目的を達成するために「ブランドを何とかしないといけない」はずなのです。ブランドを何とかするのは目的達成のための手段でしかありません。でも一番重要なはずのブランドに取り組む本当の目的があいまいで、『ブランドをつくること』が目的になってしまう。つまりは、手段と目的が入れ替わっているのです。
企業にとってブランドをつくることには投資が伴います。そんな重要なことが、目的があいまいなまま、進んでいくはずがないと思う方もいるかもしれません。しかし、ここにブランドの怖さがあります。
それは2回目のコラム(※3で触れたように、ブランドという言葉の定義があいまいであるがゆえ、目的と手段をはき違えていることにすら気づかないのです。「そもそもモノよりコトの時代に重要なブランドって何なのか?」ということは、本当はあいまいだけど、ひとまず棚に上げておいて、ブランドを何とかせねば、何とかしようと考えてしまう。(だって会社の偉い人が、ブランドをやれといってますからね。)“

 このように目的が不明確だと、自分が何をすべきか考えるための選択基準がないのですから、具体的に業務を行う人からすると今やっていることが目的に適うことなのかなどがわからず、非常に大変です。

 そのため、与えられた仕事をまずはこなす、ことにもなり、最終的には手段が目的になっていくのではないでしょうか。

【最後に】
 我々インテグラートでは、「仮説指向計画法(Discovery Driven Planning, DDP)」をベースに、コンサルやソフトウェア(DeRISK)を通じて皆様の企業価値向上のための支援をしています。

 その中では、DDPというベースとなる考え方はあるものの、お客様の状況や事情に合わせて、お客様と多く議論を重ねながら、最適な解決策を見出していくことになります。

 実際に我々が提案していく中では「方法論や得られるアウトプットとしては有益だと思うが、実務として実行できるのか」というお声を聴くこともあります。

 そこに対して、今回の学びでもあったように、成功の定義や事業の目的を明確にしながら、「単なる理論・方法論ではなく、実務に耐えうるには(担当者が業務として実行でき、評価者の方が期待する効果を得るには)」ということを考えて、具体的に各社の状況に合わせて実務に落とし込んでいくところが我々の腕の見せ所となっています。

 私自身も今一度“わかったつもり”になっていることがないか、気を引き締めて業務に臨んでいこうと思います。

 少しでも皆様の業務のヒントになっていれば幸いです。

(今泉 昂憲)

【参考】
※1 アジアで急成長を続ける【ダイキン】の強み
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00081/031300048/

※2 ブランドなんか大嫌いなブランド担当者が33年かかって、たどり着いたブランド論
https://www.advertimes.com/20200109/article304999/

続編の「ブランドなんか大嫌いなブランド担当者が33年かかって、たどり着いたブランド論(実践編)」も学びが多いです。
https://www.advertimes.com/20200514/article313829/

※3 片山氏の連載コラムの第2回目のこと