会社で事業企画・評価業務を運営する際、それぞれの会社で評価のルールが決まっているかと思います(例えば「評価指標として営業利益・NPVを用いる」「割引率は〇%とする」「評価期間は〇年間とする」など)。企画・評価業務に携わっている方はもちろん評価のルールを把握した上で業務に当たっているでしょうが、それらルールがどのような背景・原則に基づいて社内で決まっているのかまではご存じでしょうか。
ルールを決めるためには、ルールが組織としての目的達成に沿うように、関連する多くの要素を考慮する必要があります。その参考事例として今回のコラムでは、あるスポーツの競技規則を決める原則についてご紹介いたします。
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筆者はインテグラートとは別に、冬季スポーツであるカーリングの日本における競技連盟である「(公社)日本カーリング協会」の競技委員会・国際特別委員会に所属しております。特に、カーリングの国際団体である世界カーリング連盟(World Curling Federation)の年次総会や各種会合への出席と意見交換などを通じて、日本と世界の橋渡しのような役目を持っています(例:世界連盟で行われたカーリング競技規則の改訂内容を日本の競技規則へ反映)。
世界カーリング連盟(WCF)内で大会運営や競技規則に関する取り決めは「Competition & Rules Commission」(大会・競技委員会)が担っています。WCFのWebサイト(注1)にて、この委員会のGuiding Principles(基本理念)は以下のように規定されています。
The WCF Competitions and Rules Commission will at all times keep the best interests of the sport of curling and its growth in mind. There will be a balance required to retain the history and culture of curling with the requirements of the various interest groups.
(世界カーリング連盟の大会・競技委員会は、常にカーリングというスポーツの利益とその発展を念頭に置いている。カーリングの歴史と文化を維持するために、様々な利害関係者の要求についてバランスを取ることが必要となる)
まずは、世界カーリング連盟という組織の存在意義(カーリングの利益と発展、歴史と文化の維持)に照らし合わせつつ、様々な利害関係の観点からバランスを取ることが求められていることが明記されています。
そして、大会・競技委員会が競技規則を検討する際に具体的に基づく原則として、以下の13項目が規定されています。(注2)
(1) Consider the overall health of the sport (このスポーツの全体的な健全性を考慮)
(2) Fair and Equitable (公平、公正であること)
(3) Compatible with IOC values (IOC=国際オリンピック委員会の価値に適合)
(4) Practical and cost effective to implement (実施上の実現可能性や費用対効果)
(5) Supports the growth of the sport (このスポーツの発展を支援)
(6) Respect tradition but not be limited by it (伝統の尊重、しかしそれに縛られない)
(7) Enhances marketability (市場性を高める)
(8) Sustainable change (持続可能な変革)
(9) Enforceable rule (施行可能な規則であること)
(10) Consultation and transparency and consider perspective of all stakeholders (協議、透明性とすべてのステークホルダーの視点の考慮)
(11) Always consider the Spirit of Curling (常にカーリング精神を考慮)
(12) Evidence based decisions (エビデンスに基づいた決定)
(13) Balance the impact of decisions on all levels of the sport (決定がこのスポーツのあらゆるレベルに与える影響のバランス)
上記のうち例えば(2)はおよそ競技規則として当たり前の原則ですが、 (4)(6)(8)(9)(12)などは、理想論を振りかざすだけではなく現実的かつ合理的な内容とすることを求めています。また、(7)(10)や(13)などは、カーリングという競技を取り巻く様々な立場(選手や審判スタッフだけでなく、愛好者、観客やメディア、スポンサーを含めた社会一般)を考慮することを要請しています。実際、近年のカーリングの競技規則の改訂は、メディア(TV中継など)をかなり意識してより試合展開が間延びせずエキサイティングな内容とすることで、コンテンツとしてのカーリングの魅力を高めることを意識した内容が増えてきています(例:試合時間短縮の議論、よりハウス内にストーンがたまりやすく得点が起こりやすくなるようなルール)。もちろん、競技の公平性や選手視点を損なうことがないよう、競技規則の改訂に当たっては、選手代表で構成されるAthlete Commission(アスリート委員会)の意見と調整しながら具体的な内容を検討していきます。
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上に挙げた原則の項目は、ビジネス場面や会社組織に置き換えても共通・類似の概念で語ることができるかもしれません。事業企画・評価の場面で、事業現場の方から「割引率がもう少し高ければNPVがプラスになって案件を通しやすくなるのになぁ」といった、評価のルールに関する声を聞くことがあります。ぜひ一度、なぜそのようなルールになっているのか背景・原則を確認してみてはいかがでしょうか。また、評価のルールを管理する立場の方は、改めてルールについて「組織の目的達成に方向性として合致しているか」「様々な視点が考慮されているか」を見つめ、ルールを定めた背景・原則を明文化してみてはいかがでしょうか。
https://worldcurling.org/governance/rules-commission/
(注2)2021年9月に世界カーリング連盟が各加盟協会向けに実施したウェビナー資料より抜粋。