未来の倫理への想い
情報学者が、一昨年開催された、あいちトリエンナーレで、2300名の方に誰かに宛てた遺言を募集しました。「遺言っていざ書くと暗い内容にならない。自分が存在しない未来にいちど自分を置き、そこから現在を眺めると、その視点は半数以上が、”みんな幸せになって欲しい”という祈りに近い。それがこれからの倫理であり、社会的価値観である」と、かの情報学者ドミニク・チェン氏は述べています。SDGsなど間違いなく未来社会の希望への想いは益々、大きく明確でかつ切実な祈り、となって来ます。
しかし、「祈り」に対する我々の具体的な行動とはどうあるべきなのでしょうか?
対策行動の焦点・重要度
「気候変動、なぜ問わないの 争点「後回し」、声上げる若者 参院選」との朝日新聞の夕刊。注1)

同じ未来の視点でも「流行り」としての気候変動問題や脱炭素社会。
ご批判を敢えて怖れずに私見を述べさせていただくならば、化石燃料消費増加と原生林伐採のダブルパンチによる二酸化炭素濃度が幾分増えること「程度」で、「地球」という惑星全体の温度が影響を受けると考える事は、仮説としてはありだと想いますが、インパクト、影響の大きさが違いすぎてほぼ地球科学的にはナンセンスではないか、と直感的に思えます。
実際には、この20年間地球の温度は、下がっていると言うデータもあります。注2)

気候変動は明らかに極めて重大な問題ではありますが、その原因や影響を人間が対応としてコントロール出来るとは、思えないのです。 CO2=温暖化という今の思考停止対応は、かなり疑問符が付くと思われます。
人類が出来ることの何百倍・何万倍も地球と太陽系自身の変化の影響の方が大きく気候変動に及ぼす影響があるのではないか。
だとすれば、これ以上環境悪化させない対応は勿論ですが、それ以上に地球環境全体を注意深く継続して観察して最悪の場合の備えを作る対応がより重要で、場合によっては、火星に移住する選択肢をリアリティを持って考えるなど、他の選択肢をより真剣に検討する方が、現実的に大きなインパクトがあると言えるのではないか。注3)

備えよ常に
話はすこし逸れましたが、個人レベルでも企業レベル、社会レベルでも影響の大きさから事実と問題に向き合い行動してゆく姿勢と戦略は今後ますます重要になってきます。
そして、まだ見ぬ未来に対する自分自身の予測と行動の結果としての因果の仮説論理はマネジメントに関わるすべての人に未来への行動喚起の納得性と言うエネルギーを与えてくれます。
リーダーにとって最も重要な備えは、有事のプランと反転攻勢プラン。要するに組織の危機に対して如何に先の先を読むか、という事かと思います。

読む力・可能性に気づく力
もう一つ大事なことは、あえて極端な未来が現実化する可能性の大きさを考えるということです。イアン・マクミランと共に仮説指向計画法DDPを世に出したリタ・マグラスは近著 Seeing Around Cornersで、破壊的イノベーションは、傍流や辺境に居ることのさまざまな経験学習の蓄積、日常行動や洞察力から生まれるが、そのきっかけとなるInflection Pointを見逃さないことが重要としています。
インフレクションポイントとは変曲点のことですが、大きな潮目の切り替わりポイントのことです。(注4)

たとえば、コロナになって日本でも在宅・リモート勤務が日常化し、お客様対応も含めたオンライン環境が一気に普及しました。この変曲点、インフレクションポイントはどこだったのでしょうか?
明らかにコロナが発生したことなのですが、ある程度自然に在宅環境に切り替わったのは、各企業で10年以上まえから「在宅勤務」の社会的インフラ・ICTインフラに関する検討整備を個々の企業レベルで進めていたからこそ、有事の際に、ある程度スムースに切り替わることが可能となったと思われます。コロナ禍は、その否応ない普及の背中を押しやむを得ない理由を作ってくれたに過ぎないということではないでしょうか。

テクノロジーに関するインフレクションポイントは、Gartnerが提示しているハイプサイクルが一つの把握のモチーフになると考えられます。(注5)


https://www.gartner.com/en/documents/3887767

おおまかには、Hype(過熱),Dismissal(幻滅),Emergence(興隆),Maturity(成熟)の4つのステージを経ると考えられるからです。
しかし実際にその変曲点のタイミングがいつなのかを把握することは容易ではありません。ただし、注視すべき内容(仮説)が明確で、継続的にその推移をEWS(予兆)としてモニタリングすることによって理解し、推測することは可能となります。

このような技術的、市場的な将来の可能性に関する起こり得る事象について、日頃から経営レベルのアジェンダとして思考を深めることが出来ているかどうかが、重要となってきます。
リタ・マグラスは、そのためには、経営陣チームとしてモニタリングすべき情報を収集しキーとなる大きな変化の予兆を把握し機を待つことが重要である。また変化は徐々に徐々に進行し、ある時大きな変化となって表れるが、その種はすでに観察可能な状態で既に起こっていることが多く、見逃されがちである。としています。

破壊的イノベーションの源となる要素は、Randamではなくむしろ継続的に世の中に起こる小さな、しかし着実な変化であるため、これを観測しつづけることがキーとなります。

このような新たな変化の種は、傍流・辺境だからこそしがらみなく物事の本質的な可能性、未来の主流、本流となるポテンシャルを素直に捉えられると考えるのは筆者だけでしょうか。そのような人材と経営陣が直接的なネットワークを築くことが極めて大切ということですね。

構想する力・自己組織変革能力
大きな環境変化に対応し柔軟に自己変革適応を図る組織力、ダイナミックケイパビリティ(注6)の慧眼を持つ経営者は自分がもはや存在しえない長期的な未来の姿を解像度を上げて見ているのだと思います。

傍流や辺境で起こっていることを独自のネットワークを通じて収集する事実情報を元に変化のうねりの大きさや影響に気づく事ができる。
そこからさかのぼって今、何をすべきか?と言うことを危機感を持って伝えられる。

直感に反する未来の姿の成り行きを冷静・冷酷にかつ情熱と可能性を持って見ることの出来る能力、自分自身を含めた今の既得権益の構造を未来への再生と挑戦に活用することの出来るディシプリンが求められます。
特に、現在収益性の高いコア事業を持つ企業は要注意です。

過去、迫りくる危機を鮮やかに生き延びている企業の経営者の決断と行動を遡ると富士フイルムの古森氏、AGCの平井氏、IBMのパルサミーノ氏など、事業構造の変革と言う課題に際し、行動を起こしたタイミングは、それぞれのコア事業が最高益を記録していた時、既に次なる方向性を打ち出し、全社を上げてより大きな新しい価値を社内に覚醒させて生き残ったと考えられます。写真フイルム産業の消失、液晶パネル事業の急激な衰退、パソコンのコモディティー化など大きな産業レベルでの予兆を勇気をもって認識し行動実行に移しています。

富士フイルム前会長の古森重隆氏は、リーダーに必要な4つとして以下を自著で述べておられます。(注7)
読む: 流れを掴み,将来を予想する,これを読むと言っています.
構想する: 読みを具体的なプランに落とし込む.
伝える: 組織を動かすメッセージの発信,そのタイミングと方法も大事!
実行する: リーダーが陣頭指揮を執りやってみせる,それで組織が動く

伝える力・人を動かす
これら企業の事例から見えてくることは、今存在しないものの新しい価値を社内外に伝えることの難しさでもあります。
伝える力は、未来を予見、予測し、今この瞬間、柔軟さを持って行動すると言う適者生存の普遍的基本的なマネジメントの枠組みの中で取り分けリーダーに必須の条件と云えるのではないでしょうか。

ヘンリーフォードは、1880年当時まだ、移動手段が、馬が主流の時代。初めて自動車を説明するとき、顧客の言葉を使っていました。どの様な移動手段乗り物が欲しいか、と言う彼の問いに「速い馬が欲しい」と言う返答が返ってきたと言います。「馬より速く走る乗り物」のヒット商品は、マスタングMustang、ブロンコBronco。これらはみなアメリカで野生化した馬の名前であったといいます。

実行する力
3年連続でInc.500入りした急成長オンラインマーケティング会社AskMethodCompanyの起業家RyanLevesqueは、このように語っています。
「起業家にとって常に考えるべき大事なことは、たった2つである。①いつまでに何処に行きたいのか ②そして今日何をするのか。」
これくらいシンプルに明快でなければ、組織を実行に駆り立てるのは難しいという事かと思います。
実行の一番の敵は、複雑なこと。シンプルでなければ実行されず、結果がでない。
未来社会への一旦を担うべく、シンプルに仮説を議論し実行への確信と組織学習を促進することが実行を支える不可欠の要素であると考えます。

ここまで読み進んでいただきありがとうございます。
皆様の未来への挑戦をインテグラートは常に応援しています。

注1)2022/6/30朝日新聞夕刊 https://www.asahi.com/articles/DA3S15340395.html
注2)NASA/GISS気温データベース。地球の表面温度は、CO²濃度とは無関係に上昇下降を繰り返している。
注3) https://globe.asahi.com/feature/11034052
注4)Seeing Around Corners - How to Spot Inflection Points In Business Before They Happen - Rita.G.MacGrath 2019. インフレクションポイントはインテル元CEOのアンディグローブが破壊的イノベーションに関して提唱説明している産業の競争基盤が根本的に変化する際に起こるタイミングの概念。
注5)ハイプサイクル https://www.gartner.com/en/documents/3887767
注6) ダイナミック・ケイパビリティとは、カリフォルニア大学バークレー校のデイヴィッド・J・ティース氏によって提唱された戦略経営論で、「ものづくり白書2020」においては「環境や状況が激しく変化する中で、企業がその変化に対応して自己を変革する能力」と説明されています。つまり、ダイナミック・ケイパビリティとは「環境に適応して、組織を柔軟に変化させる力」のことです。さらに、ティース氏は、ダイナミック・ケイパビリティは、以下の3つの能力に分類できるとしています。
感知(センシング):脅威や危機を感知する能力
捕捉(シージング):機会を捉え、既存の資産・知識・技術を再構成して競争力を獲得する能力
変容(トランスフォーミング):競争力を持続的なものにするために、組織全体を刷新し変容させる能力
注7)「魂の経営」 – 2013年 古森 重隆 (著)東洋経済新報社。デジタルカメラの登場で写真フイルム産業全体が消失。この危機に対しフイルム技術を化粧品、医薬などに転用発展させ事業構造の転換を成功させた。