突然ですが、本稿をご覧になっている皆様の中に、VR(バーチャルリアリティ)ゴーグルを触ったことがある、という方はいらっしゃいますでしょうか?メガネのように完全に視界を覆って見える景色をすべてメガネ型の画面で表示する形式のゴーグルとして今は様々な機種が発売されています。例えば旧Facebook社なども社名変更後に会社を買収し、Meta Questという機種名でVRゴーグルを積極的に広めているようです。現在のところ、VRゴーグルの用途としてはゲーム機としてのアプリが多いこともあり、試した方はまだそこまで多くないかもしれません。

現状ですが(なお、私も1ユーザーとして買わせていただきました)、重量は500グラムとペットボトルを頭に載せているような感じで若干違和感がある、グラフィックも某創業者の自撮りのクオリティがいまいちと話題になるなどしたように特筆すべきものはない、といったところで、高画質なスマートフォン、PCに慣れた現在、まだビデオ会議と置き換わるほどのインパクトはありません。

筆者は事業性評価をコンサルティングする業務の関係上、「もし〇〇が受け入れられるようになったら」、という「仮説」を考えることが多々ありますが、今回は今一つブレイクできていないVRゴーグルが、今の一部の新しい物好きが買っているおもちゃの状態を脱出するためにはどれくらいの時間が必要なのか?ということを、関連の公開情報から収集しつつ、考えてみようと思います。

今回の分析軸は、①解像度、②映像処理性能、③その他項目(*3)と分け、そのなかの①と②で考えてみましょう。※あくまでも個人的な見解として見ていただければ幸いです。

①解像度
まず画質に関しては、スマートフォンを始めとした最近のデバイスはかなり解像度が高いものが多く、携帯電話やモバイルPCは2K(1920×1080)程度、画面の大きいテレビディスプレイでは4Kのものも増えてきました。昔は画面のドットがちょっと見れば認識できていましたが、今は近づいて見ないと点が認識できないのではないでしょうか?網膜が認識できるドット密度を超えるとスムーズに見えるものなのですが、VRゴーグルはまだこの解像度を超えられていないようです。
VRゴーグルは注目している所以外も画像を投影する必要があるため、同レベルの解像度だと感じるためには他デバイスよりは多くの表示解像度が必要で、縦横5000ピクセル程度が実現されるあたりが携帯電話などで言うRetinaの水準にあたるそうです。

そこで、過去にあった主なヘッドセット型のデバイスの機器スペックに付いてデータを集めてみました。縦軸を画素数、横軸を発売年度として表現しております。
ちょっと粗いですが、なんとなく点線のような直線型の傾向が見えるように感じます。Google Glassは一般販売していないことから仲間に入れるかどうか迷うところですが、Meta Questだけ見ても順調に画質が上がっているようです。この直線が順調に伸びていくと仮定すると、今の携帯電話程度にきれいに見えると言われる横方向5000画素を超えるのは2026~2028年かな、という予測が立てられないでしょうか?


(*1)

けっこう古くから没入型デバイスはあったようですね。90年代にもバーチャルゲーム機が売り出されていたことには驚きました

②映像処理能力
映像処理能力ですが、どの程度の処理能力があればユーザーは満足できるか、については少々幅がありそうですが、今回は「1秒間にCPUが何回計算できるか?」という指標で端末の処理能力としてはGflopsを取り上げてグラフを書いてみました。Gflopsは描画性能と正確には一致しないのですが、どれだけ複雑な構造を表示できるかという指標だとお考えください。今度は縦軸を、機器ごとのスペックとしてのGflops、横軸を発売年度として表現しております。半導体性能についての時系列グラフなので、お気づきの方にはおなじみのムーアの法則(*2)になります。VRの代表としては、スタンドアロン機はあまりないためMeta Questシリーズだけ取り出して、オレンジ色にプロットしました。


(*2)

先ほど5000画素をベンチマークしましたがそれに近い4K画質に対応できるのはPS4 Pro, Xbox One X、PS5のようです。そう遠くない将来今のPS5ぐらいの性能が出るようになってもおかしくないのかもしれないなと予測することができるのではないでしょうか。

今回は画質と処理速度とかなり乱暴に2つに絞っての分析でしたが、Wikipediaに載っている情報だけでも線を書いてみると、表示画質はドットが気にならない程度まであと5年前後、映像処理能力では3~5年ほどで2022年時点ではハイスペックと言われるレベルの3D出力ができそうだという雰囲気ですね。スペック面さえ満足のいく水準になれば、例えばここ数年リモート会議やリモート飲み会が増えてきましたが、何かソフト面のブレイクスルーがあれば、リモート会議やリモート飲み会ならぬVR会議やVR飲み会が身近になることもありうるかもしれません。

公開情報をクイックに(即席に)グラフ化するだけでも、未来予測の大きなヒントが得られます。ぼんやりニュースだけを見ていると「最近流行っていそうだ、いやいやそうでもないだろう。」となんとなく話が進むこともありますが、見つけた情報を少し並べて、可視化してみるだけでもいつもと違う世界が見えてくるのではないでしょうか?

(*1)データはWikipediaを参考にグラフ筆者作
https://en.wikipedia.org/wiki/Meta_Quest_2 など
https://uploadvr.com/oculus-quest-2-benchmarks/ (処理スペック)
(*2)ムーアの法則https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A0%E3%83%BC%E3%82%A2%E3%81%AE%E6%B3%95%E5%89%87
(*3) 「他」に含まれるものとしてはソフトや開発環境など、酔わないようにする技術、魅力的なアプリの出現などありそうですが、今回はわかりやすいスペックの話にとどめました。