インテグラートの今泉と申します。コンサルティングの際に、投資申請の意思決定を受けるための起案に対して、妥当性やリスク評価を行う評価部門の方とお話をしていると、起案内容について以下のようなことをよく相談されます。
・収益の計算結果や売上予測などの数字は出てくるが、その根拠がブラックボックス化している
・起案部門が情報を出してこない(売上の数字1本のExcelが上がってくる、など)
・起案を通すことが目的になっていて、リスク情報が提示されない(リスク情報を出すと案件を潰されるという恐怖心があるような気がする)

一方、起案部門の方にも言い分はあります。
・色々説明しなくてはいけないので面倒だ(評価部門は、専門にやっていないのでどうせ説明しても分からない)
・何を聞かれるか分からないので、いろんな資料をつくる必要があり、作業負担が大きい。その割に我々にメリットがない。
・リスクがあることは分かっており、その前提でも進める意味があると思っているが、リスク情報を出したら、起案を指し戻されそうなのであえて説明していない(一方、単にリターンばかり見てリスクについての検討は甘いというケースもしばしば耳にします)

このように、起案部門側からすると、説明をするのが面倒だ、自分たちの方がよくわかっているのに意見なんて言われても。。。といった理由に加えて、リスク情報を提示することは起案を通すためにはマイナス要素と捉えていることが多いようです。

しかし、意思決定をする側としては、本来、リターンとリスクのバランスを見て、とれるリスク内での最大のリターンを得られるように意思決定をしていきたいと思っています。

さて、リスク情報を出すことは起案部門にとって本当にリスクなのでしょうか?
(ちなみに、ここでのリスクという言葉は、「マイナス要因」という意味で使っています)

そんなことはありません。
そもそも、事前にリスクを検討し、リスクが発現したときの代替案・対応策を考えておくことは、全く想定した通りのリスクが発現しなくとも、事前に計画が外れたケースをシミュレーションしているのでリスクに対する初動が早くなります。
つまり、事業の成功確率を高めることにつながります。

さらに、起案時に事業のリスクを共有し同意を得ておくことは、起案部門の身を守ることにも繋がります(リスクも受け入れた上で投資するという意思決定をしているため)
ここは、もしかすると、意思決定者の方もリスクの扱い方について学習が必要な部分かもしれません。

一方、評価部門からは、起案部門から出された数字を信用していいか分からない、といったコメントをもらうこともあります。
起案を通すための数字を作ってきているのではないか、それを確かめるすべがない、ということです。
通すのに専念しているため、リスク情報を書いていたとしても、本当に都合の悪い情報は隠しがちで、出てきたプランの実現性が分からない、ということがあるようです。

インテグラートとしては、このような時にこそ、仮説を質問してください、とお伝えしています。
単に数字の計算方法を聞くのではなく、「どのようなときにその計画が達成されるのか」「その際に特に重要となる3つの成功要因(リスク要因)は何か」といったことを具体的に聞いていくと、どこまでリスクの検討ができているか、出してきている計画の数値は妥当なものか、ということが分かってきます。

加えて、1つのシナリオについての計画だけでなく、上振れするシナリオ/下振れするシナリオについても、「上振れするとしたらどのような状況か。上振れを促すためにはどのようなアクションを取る必要があるか」/「下振れするとしたらどのような状況か。下振れを防ぐためにはどのようなアクションを取る必要があるか」、と聞いてみてください。

そうすると、実は結構アップサイドを狙ったシナリオがメインシナリオとして出されてきており、もともと下振れしやすい計画になっている(かつ下振れを防ぐための検討がなされていない)といったことが分かったりもします。
もちろん、上記の質問にしっかりと答えられ、納得感を持って意思決定に進むことができる、ということもあります。

もしかすると、このような質問をされること自体を起案部門が嫌うこともあるかもしれませんが、起案部門にとっても目的は「事業の成功」であることを考えると、前述のように、事前にリスクについて検討を深めることは、リスク発現時の対応力を上げ、軌道修正を図るためにも必要なことである、ということができるのではないでしょうか。

組織として一歩踏み込んで考えると、リスク情報は起案者からは言い出しにくい、だから評価者が必要なのです。本来的な評価者の役割としては、起案を単に受け取るのではなくて、分析や質問によってリスク情報を掘り起こすことが不可欠なのです。
しかし、不可欠と言いつつも、評価者が起案者に質問するのは、前述のような抵抗もあり、なかなかにタフな業務です。この解決策の1つは、評価者の役割を業務規定として明記しておくことです。個人的に重箱の隅をつついているのではなく、仕事としてやっているんだ、というように立場を明確にしてあげることが重要になります。

起案者にとってリスクを示すことはリスクなのか?
本コラムを読んでいただき、「今まではリスクと考えていたが、リスクではないのでは?むしろ事業の成功のためには非常に重要なポイントではないか」と思っていただけると、嬉しい限りです。

一方で、現時点の自社を見ると、まだリスクと捉える傾向にある、という場合はこれから仕組みと考え方を社内で合意していく必要があります。
もし、何からして良いか分からない、というときには、ぜひインテグラートにお声がけください。