事業の過去の失敗から学びを得るために、失敗事例の分析を行った経験のある方は多いと思います。しかし、お客様からお話を伺っていると「失敗事例を振り返って対策を考えようとしても、当事者に対する失敗の原因追及になってしまい具体的な検討が進まない」「対策を考えて実行していたつもりでも、結局同様の失敗を繰り返してしまう」といった声を少なからずお聞きすることがあります。
 今回のコラムでは弊社の実際のサービス事例として、失敗事例から将来の成功につながる適切な学びを得るために有用な「振り返りマップ」についてご紹介いたします。

      ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 紹介に先立ち、まずは過去の振り返りを行う意義について改めて整理いたします。
 過去の振り返りは、決して、過去の失敗についての原因責任を追及するのが目的ではありません。あくまで「過去の経緯を『大事なポイントは何だったのか?』の枠組みでとらえ、将来の計画に活用すること」が目的です。
 そして、失敗したケースだけでなく、成功したケースも同様に積極的に学びの対象とすることが重要です。
振り返りの大まかな進め方は以下のステップとなります。
  ・過去の各時点において「当時我々は何に賭けていたのか=仮説は何だったのか?」を関係者間で共有
  ・計画と実績のギャップについて「仮説がどう外れたのか、どのような情報・対応があれば良かったのか」を検討
 ・そこから得られた学びを、今後の事業計画に反映
このステップを組織として効率的・効果的に実施するための整理フォーマットとして、「振り返りマップ」の作成をお勧めいたします。

 弊社が手掛けた実際例では、「仮説を使って事業の要点を説明できるようになる」というワークショップの中で、対象事業の事業部長から「ここまで、この事業は当初計画通りに進んでおらず苦戦している。何が原因だったのか過去の振り返りをしたい」との要望を受けました。そこで、弊社コンサルタントのファシリテーションの下、事業の関係メンバー自身で意見を出し合いながら、振り返りマップを作成いたしました。

 振り返りマップでは、「計画と事実の対比、を基点に、その真因を探って今後の事業計画達成のための気づき・学びを得る」という発想で、過去の事象を下記の要素に分解して整理します。そして、年表で該当するタイミングに当てはめていきます。
 ① 計画での見込み
 ② 事実/起こったこと
 ③ 直接の原因
 ④ カギになる情報と組織の行動
 ⑤ 真因(意思決定と行動)

 それぞれの内容と例は以下の通りです。
(例については簡略化のためそれぞれ1つずつ挙げていますが、実際には1つの事実や原因に対して複数の要素が考えられるケースもあります)
 ① 計画での見込み
 計画立案時点で見込んでいた内容を、「いつ時点での計画か」も合わせて記載します。
 例:2020年の事業部移管時点計画では、販売価格は10万円

 ② 事実/起こったこと
 ①の見込みに対して実際どうだったのかを記載します。上振れ/下振れの場合もあれば、想定通りの場合もあるかもしれません。
 例:2022年の市場投入から1年後の2023年には当初想定より50%ダウンの5万円

 ③ 直接の原因
 ①と②で差異が発生した(あるいは①通りに②が達成できた)理由として考えられる原因を記載ください。
 例:2021年ごろから、競合による価格競争が当初想定以上に激化

 ④ カギになる情報と組織の行動
 ③の原因をもたらすカギとなる情報がどのようなものだったのか、その情報に対して組織がどう動いた(動かなかった)のかを記載します。
 これは、「何がいつ、実はわかりえていた(はず)で、行動につなげられていた(はず)なのか?」を明らかにする意図です。
 例:主戦場である海外市場の競合情報を、2020年の市場参入を決定する前には把握していなかった。

 ⑤ 真因(意思決定と行動)
 ③に対して、④の内容を踏まえて「会社として/部門として/個人として、どういう決定・行動をしたことが真の原因なのか?」を記載します。
 例:2020年の市場参入前(事業部移管前)でも競合情報と市場価格を把握する体制がなかった。

 特に、この「振り返りマップ」作成の中で重要なのが「④カギになる情報と組織の行動」です。一般的な原因と対策の検討では、「③直接の原因」を踏まえてすぐに対策を検討しようとしがちです。上記例だと、「価格競争激化」という直接の原因に対して「高付加価値戦略で価格競争を避ける」「低価格でも利益が出るように原価を改善」といった対策が考えられるかと思います。しかし、直接の原因が既に起こった(ほぼ起こりそうな)時に適切な行動がとれなかったことよりも、そもそも直接の原因が起こるかどうかの情報を組織的に把握していなかったことの方が、失敗を防ぐための対策を考える上で重要です。既に起こった(ほぼ起こりそうな)状態からでは、行動を起こすために使える時間や行動範囲は極めて限られますし、また既に事業展開をしていると引くに引けない状況に陥ってしまい必要なコストも膨大なものになります。それに対して、直接の原因が起こるかどうかの情報を事前に把握できていれば、対策を行うまでの時間も確保できますし、直接の原因への対処が難しければ本格的に事業展開を行う前に事業の見直しを行う、という意思決定も可能になります。

 また、年表に落とし込んで整理することも大切です。結果と事実→直接の原因→カギになる情報と行動→真因、と掘り下げていくと、実は結果が起こる何年も前の段階から行動や意思決定が必要だった、ということがわかってきます。このように時間軸を踏まえて組織の行動を検討することで、対処療法であったり外部環境頼み(市場が・社会がこうなれば良い)であるような対策ではなく、今後同様の事態が起こらないように自分たちの努力としてどのようなことが必要なのか、を実践可能な形で検討することができます。

 実際のワークショップの現場では、振り返りマップの年表をプロジェクト全体で一枚の大きな模造紙で表現し、要素を参加者がひたすら付箋で書いていきながら全員で議論して付箋紙を該当する場所にペタペタ貼っていきました。アナログな手法ですが、物理的に可視化された状態となるので参加者の認識を共有するのに有効です。
そして最終的に整理報告する際には、パワーポイント形式で「①計画/②事実」ごとに1スライドずつにすると、「①計画/②事実に対して、どのような原因・情報・真因が(それぞれ1つないし複数)あるのか」がわかりやすく伝わります。

 振り返りマップの作成後、実践したお客様からは『本当はやるべきとわかっていたこともある(市場の情報収集など)が、組織として行動できなかったことがあることを再確認した。うまくいくと信じ込んでしまうという体制もあったのだろう』といった声が聞かれました。関係者一人一人の頭の中ではなんとなく「本当はこうすべきだった」と断片的に思っていることを、改めて時間軸や組織に照らし合わせてみんなで共有することで、今後必要な行動を再確認することができます。「本当に意味のある対策を考えたい」「同じ失敗を繰り返したくない」という方には、過去から将来の成功に向けた学びを得るための「振り返りマップ」の実践をぜひお勧めいたします。

(楠井 悠平)