■はじめに
 筆者が執筆した前々回のコラム(注1)では「事業が成功した姿を定義することの重要性」と題して、事業における仮説とは何かを定義し、次に事業における仮説を考えるには、「成功の定義=目標設定」が重要であることを共有しました。しかし、「成功の定義=目標設定」が難しいという声もよく伺います。
 本稿では、少しでもヒントになればと思い、新規事業の理論と実践に関する名著である大江健『なぜ新規事業は成功しないのか「仮説のマネジメント」の理論と実践[第3版]』(2008、日本経済新聞出版社)から、新規事業の目標値の考え方をご紹介いたします。

■目標値としての三つの指標
 この節では、大江(2008)の利益額・利益率・市場占有率(シェア)の目標設定の考え方を要約してご紹介します。より詳しく学びたい方は書籍をぜひお手に取ってみてください。

【利益額】
 新規事業の目標利益額は、既存事業の利益額を基準に考えます。例えば、利益額100億円の企業にとって1,000万円(0.1%)の利益額では、あまり影響がありません。(ここでいう利益額は事業開始年度ではなく事業立ち上げ後ある程度落ち着いたときの予想利益額)
 リスクを冒して人材その他の経営資源を投入する以上、新規事業の利益額は少なくとも既存事業の利益額の10%程度(既存事業の利益額100億円の企業では10億円)は目指すべきだと考えられます。
 同程度の経営資源を既存事業に投入すれば、同程度の利益額を得られるという場合は、新規事業ほどのリスクを取らずに済む既存事業に経営資源を投入すべきということになってしまいます。これに、そうではない、と言うための最低限の利益額を目標として設定すべきという考え方です。

【利益率】
 新規事業の目標利益率も、既存事業の利益率を基準に考えます。利益率が既存事業より低ければ、企業の利益率が低下していってしまいます。リスクの高い新規事業においては、高い利益率を目指すことが必要となります。
 目安として、既存事業の利益率の2倍以上の利益率を目指すことが推奨されます。既存事業の利益率が10%の場合は、新規事業の目標利益率は20%ということになります。新規事業には知らないことが多いため、可能性として2倍程度の利益率がなければ、最終的に既存事業の利益率より低くなってしまう可能性が高いからです。
 しかし、この考え方で設定した目標利益率が業界平均値とかけ離れて高い場合は、新たな戦略やビジネスモデルが必要になります。もし新たな戦略やビジネスモデルが考えられない場合には、業界平均値をベースに目指し得る目標値を設定すべきです。

【市場占有率(シェア)】
 新規事業の目標シェアは、最低でも10%以上を目指すべきです。せっかくリスクを負いながら経営資源を投入するからには、業界3番手の最低ラインである10%は確保すべきという考え方です。
 シェアが小さく、リーダーに追随せざるを得ないポジションでは、利益が出なくなってしまう可能性も高いです。最低でも3番手には入れるような事業を選択すべきです。

■目標値の算定例
 以下は、既存事業の売上高2,000億円、利益額100億円、利益率5%の場合の例です。この場合、新規事業の目標値は売上高100億円、利益額10億円、利益率10%、市場占有率10%となります。

 但し、本書では、巨大企業や現在の利益率が業界平均をはるかに上回っている企業にとっては、上述したことは必ずしも適当ではないとも述べられています。

■おわりに

 以上、「成功の定義=目標設定」が難しいと感じた場合のヒントとして、新規事業の目標設定の考え方を要約してご紹介してきました。ご参考になっていれば幸いに存じます。

(松下航)

(注1)ご関心のある方は、拙稿「事業が成功した姿を定義することの重要性」をご笑覧ください。
https://www.integratto.co.jp/column/184/