筆者は、2023年9月にリタ・マグラスに会いにコロンビアビジネススクールを訪問して来ました。

日本ではほとんど知られていない企業の成長戦略マネジメントの方法について、彼女の研究とコンサルティング分野での内容を三回にわたってご紹介します。

本稿でご紹介する原書であるDiscoveryDrivenGrowth:A Breakthrough Process to Reduce Risk and Seize Opportunity は、2009年に初版が出版されており、その成果は、2000年初頭のIBMやMicrosoft など多くの企業の成長戦略に大きく貢献しました。また、Ten Thinkers50 Classic Management Booksにもエントリーされている良書です。
https://www.einnews.com/pr_news/631870199/discovery-driven-growth-selected-as-one-of-ten-thinkers50-classic-management-books

IBMの戦略企画室長はガ―スナーCEO時代「我々は、事業の異なる成熟ステージに応じたマネジメントシステムを必要としていた。IBMのEBO(EmergingBusinessOpportunity)は、成長投資のプログラムを、どのように企業が予算化し、戦略的にスキームを考え、計画化するかを根本的に変革した。」と語っています。
また、Microsoftでも2005年にBillGatesが全社的なブレークスルー成長を実行した際、新興国向けのユビキタスOSで世帯収入が増加し、TV,電話,その他PCなどの購入可能層が出てくる4億8900万世帯をターゲットに戦略を考えていたUPG(UnlimitedGrowthOpportunity)に戦略立案を指示し、新興市場のPC初心者向けWindowsとしてWindowsXP StarterEditionを、消費チェーンの13のポイントでいかに、低所得者向けPCのニーズを捉えるかに集中。(子供が学校に通う両親がターゲットであった)2004年後半にタイからスタートしたWindowsXP StarterEditionは、WindowsVistaStarterとなり現在139か国59の言語で販売され2006年に100万コピーを売り2008年には700万を超えたといわれています。

考え方の源流は、弊社が日頃サービス提供の基盤としている仮説指向計画法Discovery-Driven Planningですが、企業組織全体として取り組む方法を記したのが、このDDGです。

残念ながら今のところ邦訳書はありません。

本稿、第一回では全体の方法論概略とポイント、特に日本の企業にとって見過ごしがちな部分に着目してご紹介します。

以下、原書からの抜粋です。(筆者日本語訳)

■異なる成長の源泉

多くの良い成長プログラムは最初は徐々に進む段階的な成長から始まり、大きく新たな機会の存在を学習する投資を生み出す。そこで、多くの企業が爆発的なブレークする成長を捉える。多くのブレークするポイントは最初は分からない。
DDG原則はユニークである。このアプローチで、積極的な成長ターゲット目標を追求し、多くのダウンサイドリスクを最小限にとどめることができる。これらの規律の礎石に当たるのがDDPである。

■DDGとは何か、何故機能するのか

DDGアプローチは極めて不確実性の高い環境下における3つの認識・感情のバイアスの高くつく代償を克服する。
・Confirmation bias(確証バイアス)
・Recency bias(直近バイアス)とHuman cognitive limit(認知限界)
・Winners curse(勝者の呪い、FOMO Fear OfMissingOut見逃しの恐怖)

必要なプロセス
・Set direction 方向性を定め
・Probe inexpensively 安く探査し
・Redirect where necessary 必要であれば方向転換する
・Grasp emergent growth,but shut down early and inexpensively if things don’t work out. 現れた成長機会を捉える。しかし上手くいかないと分れば早めに安くつくあいだに中止する。
これがDDGの全てだ。

■DDG を構成する3つのパーツ

1.戦略的成長に集中する
 会社の戦略とリソース配分、プロジェクト承認と成長戦略の具体的な行動可能な機会を連係させること
2.成長戦略プロジェクトを実行する
 実際のプロジェクトを戦略の中核として実行する事を学ぶ
3.DDGを機能させる
 DDGを会社の文化に組み込む

従来のマネジメントとの違いを一覧にすると、以下のようになります。

■従来の方法とDDGの違い

この対比表の項目で、筆者は着目すべきは最後の「終息の決定」の部分だと思います。

多くの製造業の研究開発部門では始めた研究はやめられないのが現状ではないでしょうか。

「やると決めやってきた事を途中で投げ出すのは良くない、完遂させてこそ本物である。」

一見もっともで在るべき考え方のように聞こえます。
しかし、置かれた状況と経営的合理で考えた時に、正しくプラス面、マイナス面を見据えているかどうかを考えた時、議論すべき余地があるのではないでしょうか?

長年諦めずに取り組んだ成果がいつか大きく花開くこともあれば、見込みのないプロジェクトに多くの優秀な人材が張り付けになり、逆に人材育成上の問題や機会ロスになっている。
また、中止する事で担当者へのメンタル面のダメージなど、さまざまな問題が考えられます。しかし、これらの問題を担当任せや、予算獲得の有無だけで本来のマネジメント不在になってはいないでしょうか?

DDGでは、中止撤退や終息を計画プロセスの一部として前もって必要なものと捉え、得られた経験や知識を意図を持って社内に継承すると言う組織学習と捉えます。
多くのプロジェクトの成功が、「せんみつ(1000に3つ)」であるならば、997個の組織の取り組みは個別独立して存在しているのではなく、先行する研究やプロジェクトがパスを送ることで、後続プロジェクトが成功することもあるでしょう。

このように、DDGでは自然に放っておくと社員が組織としてどう受け止めるか、を意図的に大きな全体目標達成に必要な規律を作ることにより、組織のパフォーマンスを高め、強化します。

こう言った枠組みが、組織の心理的安全性も高めてくれます。

また、どうすれば不確実性の高い事業の全体成長戦略を策定実行できるのかについて組織の各階層にとっての価値・意味のある取り組みであることを以下のように説明しています。

取締役、役員、CEOなら
・DiscoveryDrivenプロセスは組織の創造性を解き放ち、規律のないイノベーションのブラックホールに陥ることを防ぐ。従業員に権限移譲し、鼓舞し、応援し、深く考えること、より良く実行することを支援し、マイクロマネジメントに嵌らないことを可能にする。

事業部長、事業責任者なら
・重要戦略にDiscoveryDrivenの考え方を適用することを考えよう。そうすれば直ぐに成長は、もっと妥当で実現可能であること理解できる

駆け出しの若いマネージャ、社員なら
・これらの方法論、手法を使って、上司の考えている懸案事項をより、明確に規律を持って考えることができる。

管理部門や非営利団体や公益組織のタイプなら
・この手法を使って重要と考えられる取り組みのよりよい企画提案を策定することができる

アントレプレナーにとって、DDGは未来の事業成功のロードマップを提供することが出来るだろう。

以上、DDGの簡単な概略とポイントについてご紹介しました。

次回、第二回では、具体的な成長戦略のフレーミングとリソース配分に有効なプロジェクト群の可視化の方法として、不確実性のポートフォリオを紹介します。

名田 秀彦

(参考文献) 
“Discovery-Driven Growth: A Breakthrough Process to Reduce Risk and Seize Opportunity” Rita Gunther McGrath, Harvard Business Review Press (2009/3/16)
https://www.amazon.co.jp/Discovery-Driven-Growth-Breakthrough-Process-Opportunity-ebook/dp/B004OEIOCO/