こんにちは、コンサルタントの春原(すのはら)です。今回のコラムでは、一九九四年に出版され経営書としてベストセラーになった「ビジョナリーカンパニー(Built To Last)」の著者であるジム・コリンズ氏らが、六年の歳月をかけて「良好な企業(グッドカンパニー)」と「偉大な企業(グレートカンパニー)」の違いを調べ上げ、そこから得られた知見を偉大な企業の法則としてまとめ上げた「ビジョナリーカンパニー2 飛躍の法則(Good To Great)」(注1)の書籍を紹介させて頂きます。
 本コラムでは、本書ご紹介の理由や著者の問題認識を説明した後、良好な企業から偉大な企業に生まれ変わる飛躍の法則について説明します。

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1.前書ではなく本書ご紹介の理由
 本コラム読者の皆様には「何故、前書・一作目のビジョナリーカンパニーではなく、二作目である本書を紹介するのだろうか?」と疑問に思われた方も多いと思います。これは著者のコリンズ氏にとっても同様で「思いもよらなかったこと」と書籍に記載しています。「本書ビジョナリーカンパニー2・飛躍の法則は、前書の続編ではなく前編なのだと考えるようになった」と著者も語っています。
前書が扱ったのは、偉大な実績をあげている企業を、偉大さが永続する卓越した企業にする方法です。卓越した企業になるには基本理念、利益を超えた目標、そして、基本理念を維持して進歩を促す仕組みが必要であり、本書では「良好な企業」が「偉大な企業」となるための法則を解き明かすことで、これらの基本理念や目標、仕組みを明確化しています。

2.著者の問題認識
 本書の出発点は、著者があるコンサルタントに「ビジョナリーカンパニーは素晴らしい本だが役に立たない」と批判されたことに始まります。ビジョナリーカンパニーと評価された企業は、いずれも偉大な創業者によって創りあげられたもともとグレートな会社なので、グレートに飛躍できない企業の手本にはならない。このような指摘から、本書の根底にある「どうすればグッド・カンパニーはグレート・カンパニーになれるのか」という新たな問いが生まれました。

 まず『「良好な企業」から「偉大な企業」に飛躍した企業』は下記の二点の厳しい選定基準にて定義し、この基準を満たす企業を探しました。

【「良好な企業」から「偉大な企業」に飛躍した企業の選定基準】
 1.株式運用成績が十五年にわたって市場並み以下の状態が続く
 2.転換点の後は一変して、十五年にわたって市場平均成績の三倍以上となった

図1.「良好な企業」から「偉大な企業」に飛躍した企業

 上記の選定基準にて、一九六五年から一九九五年までにフォーチュン誌のアメリカ大企業五百社に登場した企業を対象に、組織的に調査と選別を進めて、最終的に飛躍した企業を十一社見つけ出しました。
次に、偉大な実績をあげるまでに飛躍した企業と比較するために、細心の注意をはらって比較対象企業を選び、「直接比較対象企業」十一社と「持続できなかった比較対象企業」六社が比較対象となり、飛躍した企業十一社と合わせて、合計二十八社を調査対象としました。
 今回の調査での決定的な問いは「飛躍した企業に共通していて、しかも、比較対象企業との違いをもたらしている点は何か」です。

3.飛躍の法則の枠組み
 ここで、概念の枠組みを概説します。
 偉大な企業への変化の過程を、「準備」とその後の「突破」の過程と考え、全体を三つの大きな段階に分けて考えています。「規律ある人材」「規律ある考え」「規律ある行動」の三段階です。三段階のそれぞれに二つの主要な概念があり、下図の枠組み図に記載しています。この枠組みの全体をつつむのが「弾み車」と呼ぶ概念であり、これが良好から偉大への過程の全体像をとらえるものとなっています。以下に、それぞれの概念について、本書での説明を簡単に記載します。

図2.偉大な企業への飛躍の法則の枠組み

 ■第五水準のリーダーシップ
 個人としての謙虚さと、職業人としての意志の強さという一見矛盾した組み合わせを特徴としている。パットン将軍やカエサルよりも、リンカーンやソクラテスに似ている。

 ■最初に人を選び、その後に目標を選ぶ
 最初に適切な人をバスに乗せ、不適切な人をバスから降ろし、適切な人がそれぞれにふさわしい席に座ってから、どこに向かうべきかを決めている。「適切な」人材こそがもっとも重要な資産である。

 ■厳しい現実を直視する(だが、勝利への確信を失わない)
 どんな困難にぶつかろうとも、最後にはかならず勝てるし、勝つのだという確信が確固としていなければならない。だが同時に、それがどんなものであろうとも、きわめて厳しい現実を直視する確固たる姿勢をもっていなければならない。

 ■針鼠の概念(三つの円のなかの単純さ)
 中核事業で世界一になれないのであれば、中核事業が飛躍の基礎になることは絶対にありえない。三つの円が重なる部分に関する深い理解に基づいて、中核事業に代わる単純な概念を確立するべきだ。

 ■規律の文化
 「規律ある人材」に恵まれていれば、階層組織は不要になる。「規律ある考え」が浸透していれば、官僚組織は不要になる。「規律ある行動」がとられていれば、過剰な管理は不要になる。「規律の文化」と「起業家の精神」を組み合わせれば、偉大な業績を生み出す魔法の妙薬になる。

 ■促進剤としての技術
 飛躍した企業は、変化を起こす主要な手段として技術を使っていない。その一方で逆説的なことに、慎重に選んだ技術の適用に関しては、先駆者になっている。偉大な企業への飛躍にしろ、没落にしろ、技術そのものが主要な原因となることはない。

 ■弾み車と悪循環
 革命や、劇的な改革や、痛みを伴うリストラに取り組む指導者は、ほぼ例外なく偉大な企業への飛躍を達成できない。偉大な企業への飛躍は、結果をみればどれほど劇的なものであっても、一挙に達成されることはない。たったひとつの決定的な行動もなければ、壮大な計画もなければ、起死回生の技術革新もなければ、一回限りの幸運もなければ、奇跡の瞬間もない。逆に、巨大で重い弾み車をひとつの方向に回しつづけるのに似ている。ひたすら回しつづけていると、少しずつ勢いがついていき、やがて考えられないほど回転が速くなる。

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 以上が良好な企業から偉大な企業への飛躍の法則について、非常に簡単に説明した内容となります。それぞれの概念について、上記の内容では説明が不十分と思いますが、ぜひ本書をお手に取って、その詳細や本質を読み解いて頂ければと存じます。
 最後に、本書の巻末にて一橋大学の野中郁次郎教授(当時)が本書の解説を記載していますが、そちらから野中教授のメッセージを以下に引用させて頂きます。
 『アメリカ型の経営というと、われわれは、全てを分析的に捉え「競争に勝つ」という相対価値を飽くことなく追求する経営スタイルを連想しがちであるが、グレート・カンパニーになった企業の指導者たちからは、一貫して「社会に対する使命」という絶対価値を追求する強い意志力が伝わってくる。日本企業の原点も、本来は絶対価値の追求といったところにあったのではなかろうか。ここで取り上げられたグレート・カンパニーの事例は、グローバルに通用する企業の本質を示唆していると同時に、われわれにアメリカ企業の懐の深さを改めて認識させてくれる。「使命感」、「気概」、「情熱」といった言葉が死語となりつつある時代にあって、本書はわれわれの進むべき道を考え直すよい機会を与えてくれたように思われる。』
 弊社は「世界中の新たな製品・サービスの実現に貢献すること」を使命としておりますが(注2)、本書の知見が皆様の新たな製品・サービスの創出にお役に立つことを願っております。

(春原 易典)

(参考文献)
(注1)『ビジョナリーカンパニー2 飛躍の法則(Good To Great)』(日経BP、2001年)
https://www.amazon.co.jp/gp/product/B00MVM2HIS

(注2)『インテグラートの使命』
https://www.integratto.co.jp/company/mission/