私たちインテグラートは、ミッションとして「世界中の新たな製品・サービスの実現に貢献するため、ビジネスの未来を考えるビジネスシミュレーションを提供する」と掲げています。
長年この会社で仕事をしてきた中で、ビジネスシミュレーションの分析機能として、感度分析やシナリオ分析は取り上げることが多くあります。お客様の中でもこれらの分析を実際の事業投資案件のビジネスシミュレーションに使われている方が多いです。これに対し、「モンテカルロシミュレーション」は言葉の中に「シミュレーション」という言葉が入っているにも関わらず、先に取り上げた2つの分析と比べるとあまり使われていないシミュレーション分析で、実はよく知らないという方も多いのではないでしょうか。今回のコラムでは、このモンテカルロシミュレーションについて、成り立ちや使い道についてご紹介したいと思います。
■モンテカルロシミュレーションとは
モンテカルロシミュレーションとは、ランダムサンプリングを使用して複雑なシステムやプロセスをモデル化し、分析する計算手法です。1940年代に、アメリカの科学者だったジョン・フォン・ノイマンとスタニスワフ・ウラムによって考案されました。この手法の名前はモナコのモンテカルロカジノに由来しています。
ランダムサンプリングとは、評価指標を算出する計算モデルの中にある仮説の値に確率分布を設定し、確率分布に基づいて仮説の値をランダムに発生させることです。イメージとしてはサイコロを繰り返し振るように、仮説の値を数千回から数万回発生させ、それによって計算された利益や売上と言った評価指標の値を集計します。これにより、短時間で多くの仮説の組み合わせ(シナリオ)を作成し、各シナリオの評価指標のバラつきの大きさや、統計的な期待値を算出することができます。
バラつきの大きさとは、もともと考えていた利益や、売上の大きさがどれくらいまで小さくなりうるか、大きくなりうるかを表します。標準偏差という指標で表されることが多いですが、例えば利益がマイナスになるパーセントは40%、といったように一定の値を下回る確率で示すこともできます。統計的な期待値とは、各シナリオの評価指標の平均値を指します。事業投資案件の事業性評価では、このような確率や平均値を使って、赤字になるリスクは何%かといったように、事業投資計画の妥当性を議論する材料に使われます。
モンテカルロシミュレーションは事業性評価以外ではどのような分野、用途で使われているのでしょうか?まず1つは金融・保険の分野でよく使われています。保有資産の予想される最大損失額(バリュー・アット・リスク)を算出する用途や、保険契約の価格設定の用途にモンテカルロシミュレーションが使用されています。また、最近増えている気象変動による大雨、洪水などの自然災害に関するリスクの評価にも使われています。
■モンテカルロシミュレーションのメリット・デメリット
では、事業性評価でモンテカルロシミュレーションを使う時のメリット、デメリットは何があるでしょうか?
メリット1:起こりうる組み合わせを網羅的に検討することができる
仮説の値の組み合わせを網羅的に、もれなく作り出すことは人力ではほぼ不可能ですが、モンテカルロシミュレーションは試行回数の数だけ組み合わせを作成します。網羅的に考えられた組み合わせの中で、売上や利益などの評価指標がどれくらい上振れ、下振れするか、目標値を下回るリスクは何%であるかを示すことができます。いわば人力ではカバーできない検討量をこなせる点がメリットの1つと言えます。
メリット2:いろいろなシナリオの可能性を織り込んで1つの値にできる
事業計画の検討の中で、複数の仮説の値を変えて起こりうるシナリオを検討することは多くの会社でも行われていることかと思います。しかし、「全てのシナリオを検討できているのか?分かっている範囲でしかシナリオを検討できていないのではないか?」といったマネジメント・意思決定者の問いにはなかなか答えづらいでしょう。モンテカルロシミュレーションは仮説の値をランダムに変動させることにより、いろいろなシナリオの可能性を検討した結果を示すことができるので、この経営陣の問いに対応することができます。
ある会社では次のような使い方をしています。
まず、重要な仮説(仮に価格とします)1つだけを変えてシナリオに分けます。価格のシナリオが3つの場合、評価指標(仮に利益とします)も3つ計算されます。3つの価格シナリオのそれ以外の仮説はモンテカルロシミュレーションで変動させ、シミュレーションで得られた3つの利益のシナリオの平均値を「全ての変動要因を加味した期待値」として、経営陣に提示しています。
デメリット:ランダムサンプリングであることが、マネジメント・意思決定者の理解が得られにくい
逆にデメリットとしては、ランダムサンプリングであるがゆえに常に同じ結果になる訳ではなく、確率統計の知識を要求されることとあいまって、マネジメント・意思決定者の理解が得られにくい点が挙げられます。しかし、マネジメントがあらかじめ確率統計の知識を持っている場合、提案者側が考えたシナリオより多くのシナリオを検討できる分析だとしてモンテカルロシミュレーションが歓迎される場合もあります。このあたり、マネジメント・意思決定者の分析手法に対する選好があると言えるでしょう。
また、確率分布等の設定が他の人が確認しにくく、ブラックボックスになりやすい点もデメリットと言えます。この対策として、確率分布の設定方法をルール化することにより、シミュレーション結果の信頼性を確保する工夫を行うことなどが挙げられます。
弊社製品DeRISKでは、このモンテカルロシミュレーションを搭載した「リスク分析」の機能があります。以下がその分析画面となります。本コラムでモンテカルロシミュレーションに興味を持たれた方、ご自身のビジネスに使えないかと考えられる方がいらっしゃれば幸いです。
(井上 淳)