前回のコラム:Vol.211 / 23.11.20 第1回では概略についてお話しをしました。
https://www.integratto.co.jp/column/211/
今回は、ディスカバリードリブン戦略を実行する上で、重要なツールとなる投資プロジェクトの事業機会ポートフォリオ(不確実性のポートフォリオ)可視化についてお話を進めます。
対象の成長投資プロジェクト群の全体像を可視化し、各プロジェクトの不確実性を低減してゆくことで、成功度を高め投資予算やリソース配分のコントロールを行う羅針盤となるものです。
■ディスカバリー・ドリブン戦略における位置づけ
不確実性下での成長投資戦略の実行において、以下5つステップが必要となります。
・ステップ1: 課題のフレーミング定義
・ステップ2: 事業機会ポートフォリオの作成
・ステップ3: 戦略的プロジェクトの管理
・ステップ4: 計画を財務に結びつける
・ステップ5: 仮説を知識に変換する
本稿では「ステップ2: 事業機会ポートフォリオの作成」について、より詳細を説明します。
1.事業機会ポートフォリオとは何か
2.事業機会ポートフォリオの必要性・意義・メリット
3.具体手順とサンプル
4.投資原資としての予算決定運用
5.仮説検証・学習の進捗モニタリングとステージゲート管理
1.事業機会ポートフォリオとは何か
研究開発投資や新規事業開発投資のような不確実性を考慮し、段階的なプロジェクト推進を行うような業務には、現状と目標の可視化が必要になります。
事業機会ポートフォリオは、市場と技術という2軸での不確実性の度合いをベースとして各プロジェクトの状態を可視化し、次への学習すべき行動を促します。
また、可視化の状況を踏まえて、全体の新規開発テーマ進捗に必要な予算配分をコントロールする方法を示します。
2.事業機会ポートフォリオの必要性・意義・効果
今なぜ、この事業機会ポートフォリオが重要かといいますと、不確実性の高い投資予算の説明責任を果たすことに繋がり健全なコーポレートガバナンス強化に役立つからです。そして組織全体の取組みの全体像と価値最大化への具体アクションが明確になり事業投資プロジェクトの収益期待値を示す事が出来るようになります。また、透明性の高いリスクマネジメント確立に必要不可欠なものとなります。
一般的な事業ポートフォリオと何が違うかと言うと、個別プロジェクトを市場や技術の不確実性の度合いによって評価する事により各プロジェクトの将来の不確実性を低減するための学習を促すところにあります。
以下のように、プロジェクト単位にはDDPを適用しながら、全体としては、事業機会のポートフォリオで可視化する方法を統合して運用することで組織レベルで効果を発揮します。
つまり、不確実性の高い成長投資戦略の一貫性と成功度を向上するマネジメントシステム高度化に役立ちます。
(事業機会ポートフォリオイメージ図)
・解決できる課題
特に、以下の様な業務や、業種に適用が可能です。
適用業務や業種
●研究開発組織におけるテーマ管理、リソース配分の決定
●企業の中長期成長投資のプロジェクト、プログラムマネジメント
解決できる課題は、以下の様な内容となります。
●事業価値予測を算出し、R&Dの事業貢献を示す。
●目指す投資成果のゴールへの進捗を説明し、行動を促す
●技術開発、新規事業開発のテーマ管理におけるリスク低減と成功確率アップを図る
・活用上の重要なポイント
事業機会ポートフォリオの作成と運用上の重要なポイントは、4つです。
1.精緻さや厳密になりすぎない
○評価手法が妥当である事は勿論必要ですが、評価のためにかける労力に対する効果を考えた場合、明らかな間違い、誰がみても乖離している投資目標ギャップが有ることに気づくことが重要です。そのためにはよくわからない状況での厳密さや精緻さを求めないと言うことが必要です。
2.仮説検証アクションとステージゲートを結びつける
○より効果的に組織の開発プロセス上のステージゲート運用との関係を整合させることにより、技術開発としての進度と事業性としての不確実性低減を整合させ、投資意思決定に活用することができます。
3.定期的に確認して進捗を報告共有し投資予算のガバナンスに活用する
○事業化成功のために必要な条件に占める仮説の割合が高い状態から低い状態にすることを継続して可視化すると、プロジェクトの将来予測が容易になって来ます。この将来の予測情報を用いて予算配分方針に基づく個別プロジェクトの次年度予算可否の判断に活かします。
4.安く早く新たな学びを得る事を重視する
○仮説指向アプローチに基づく、ディスカバリードリブン戦略が成果を上げた中核的考え方であり、この考え方が組織にもたらす建設的な意義、運用方針が、学習による長期的な価値を生み出していきます
3.具体手順とサンプル
事業機会ポートフォリオによる可視化と運用を進める具体的手順は、以下のとおりです
・手順1 戦略適合のマネジメント
●管理すべき対象プロジェクトを選別する際に、投資目的や戦略と適合する条件をマネジメントで合意する。以下の例のような評価表でスコアを取り、一定以上の水準または相対評価を行うなど。
(戦略・目的適合評価表の例)
・手順2 予算配分方針の設定
●全体予算配分の方針、予算枠を不確実性の度合いの違いに応じてゾーニングされる5つのゾーンごとに決める
各ゾーン別配分割合の大まかな目安は、以下ベンチマーク等を参照して自社方針に応じて設定します。
(出所:Diamond HarverdBusies Reviewを参考にADL社作成)
・手順3 プロジェクトポートフォリオ
対象テーマ別に市場や顧客 X 技術や組織能力の不確実性及び必要な予算工数を基にしてマッピングする
実際にマッピングをしてみると、以下のサンプルのような想定しているリソース配分とは違った偏りなどがみえて来ます。
(出所:リタ・マグレイス/イアン・マクミラン著「アントレプレナーの戦略思考技術」, 2000, ダイヤモンド社)
・手順4 ゾーン別管理方針の設定と実行
5つの各ゾーン別に、管理方針を定め、仮説検証を進めます。また既存の開発プロセスのステージゲートとの整合も意識します。
●ゾーン別管理方針表の作成
●ステージゲートとの整合確認
・手順5 仮説検証計画
目標達成のために優先度の高い仮説検証タスクのアクションプランを実行し、仮説を知識化できたかどうか、新たな情報を獲得できているか、モニタリングする。
(仮説検証アクションプラン)
・手順6 仮説更新
仮説検証アクションプラン実行結果を踏まえ不確実性の低減度合い、予測事業価値の内容を更新する。新たな発見事項に基づいて、不確実性スコア、NPVの仮説変数の数値や根拠を見直し更新します。
・手順7. 年次予算更新
新たなプロジェクトを次年度追加したり推進中のプロジェクトの再評価、場合によっては中止することも含め、各ゾーンごとの配分内での優先度を評価して年次の予算計画に反映します。
4.投資原資としての予算決定運用
・可視化例と収益性の評価フレーミング
幾つかの可視化サンプルを紹介します。
❶市場スコア、技術スコアとしての質問項目を設定し、スコア化します。
❷キャッシュアウト発生費用予測、キャッシュイン収益予測で財務と結びつける
(アーリー段階はBBNPVなどを活用:24.04.22 / vol.216「アーリーステージの新規事業における簡易価値評価ツール「BareBones NPV」の紹介を参照ください。)
❸予算配分検討表で配分率枠内でのプロジェクトリソースを割り当てる
(評価手法としてはSTART法を適用)
➍累積効率曲線で投資効率の高いものの傾向を確認する(BareBonesNPV)
5.仮説検証・学習の進捗モニタリングとステージゲート管理
ポートフォリオマップで個別プロジェクトの不確実性低減の進捗を把握します
また、色別に表すように、ステージゲートと不確実性のスコアの整合を取り、技術開発プロセスの進捗と事業環境における不確実性低減を同期して管理してゆきます。
上図でしめす、アイデア検証、技術検証、顧客市場検証ゾーンは、例えば、関門①までのリーサーチ研究ステージ、基盤開発ステージ、実用化製品開発ステージ、最終的には事業部門移管としての事業化ステージなどと対応付けて管理してゆきます。
まとめますと、事業機会ポートフォリオで全体像を把握し、固有のプロジェクトを仮説検証によって、アクション管理を行うことにより、事業価値予測として財務と結びつけることで、経営陣との会話、すなわち、どれくらい儲かるのか、そのために重要な仮説としてよく分かっていないことは何かを特定し、必要な予算を適切に把握しつつマネジメントをしてゆきます。
事業機会のポートフォリオは、一連の活動の「姿鏡」の役割を果たします。
以上、事業機会のポートフォリオによる可視化手順をご紹介しました。
次回第三回では、ディスカバリードリブン戦略による投資予算運営法についてお話します。
名田 秀彦
(参考情報)
■ディスカバリー・ドリブン成長の概略
ディスカバリードリブン成長戦略(Discovery Driven Growth)は、不確実性に直面して企業の成長を促進する組織的アプローチです。その核となるのは、現在の利益を保護・向上させると同時に、将来の成長を確保するプロジェクトのポートフォリオを低コスト・低リスクで作成するのを支援する計画と実行の方法論です。
不確実性の高い戦略的な投資を仮説指向計画法で管理する
ディスカバリードリブン成長戦略は、企業レベルでも戦略的プロジェクトレベルでも、成長努力が価値あるものとなるような成果を具体化することから始まります。成功の定義と、組織がどこでどのように目標を追求するかのガイドラインを事前に設定します。その後、ディスカバリードリブンのツールを使用してその目標に近づいていき、不確実性が減少するまでダウンサイドリスクの顕在化を抑え、目標成長の捕捉に自信を持って投資するか、うまくいかなければ早期に安価に撤退・中止するかを判断します。
仮説指向計画法(DDP)で戦略を実現
戦略を実現するために必要なプロジェクトを把握したら、DDPがそれを実現するのに役立ちます。従来の管理実務では良い管理者は結果を予測できると仮定するのが当然ですが、仮説指向的アプローチは不確実なプロジェクトにおいては事前に結果を知ることはできないという認識から始まります。代わりに、できる限り低コストで多くの情報を得ることを目標とし、新しい情報が明らかになるたびに活動を再調整する準備を常にしておきます。仮説指向によるプロジェクトでは、損失を出しても問題ない程度の少額の資金を投資し、その情報を元により自信を持って投資を進めるための知識を得ます。
計画が進行するにつれて、いわゆる仮説対知識の比率を低減させたいと考えます。仮説の比率が高い場合は不確実性が大きいため、安価で迅速に学習することが優先されます。この比率が縮小するにつれ、学習の代わりに明確な成果に向けた集中と資源のコミットメントが目標となります。
・ディスカバリー・ドリブン成長戦略の5つの重要なステップ
ステップ1: 課題のフレーミング定義
ディスカバリードリブン成長は、組織全体の戦略的成長課題を定義することから始まります。通常は企業の経営陣がこのプロセスを行います。このプロセスの結果、追求すべきイニシアチブの種類に関するガイドラインが設定されます。これにより、会社の他の全てのメンバーがどのような機会が適切であり、戦略的に適合しているかを理解し、そのための支援に合意して取組むことになります。
ステップ2: 事業機会ポートフォリオの作成
次に、どのプロジェクトをポートフォリオに含めるべきか、どのプロジェクトを含めるべきでないかを検討します。理想的には、ポートフォリオは組織の戦略的目標を達成する可能性を持つものであるべきです。
ステップ3: 戦略的プロジェクトの管理
次に、個々の戦略的プロジェクトをどのように管理するかを見ていきます。まず、ビジネスモデルの構造を構成する事業単位(Unit of Business)を特定することから始めます。事業単位とは、文字通り顧客が支払う対象の単位となるものです。
ディスカバリードリブン計画を進める中で、当初設定した事業単位が期待した収益や利益を生み出さない場合があり、その際には事業単位を再定義する必要があります。また、当初考えていた方法で目標を達成することが非現実的であることが判明するかもしれません。その場合、最終的に成長プロジェクトの成功を導く主要な測定指標を考え、それを潜在的な競合組織と比較する必要があります。これは、社内オフィスの特異な雰囲気では合理的に思える仮定が、事業競争の現実性を欠いたものかもしれないというリアリティチェックとなることがよくあります。
ステップ4: 計画を財務に結びつける
次に、ディスカバリードリブンプランを現実とつなげ、整合性を保つためのツールが登場します。その中には、逆損益計算書と逆貸借対照表があります。これらを使用して、意思決定を結び付け、将来のビジネスをシミュレーションし、何が起こるかを仮定して考えます。これにより、将来のビジネスへの投資が非常に少額である間、現実的であることを確認できます。
ステップ5: 仮説を知識に変換する
ディスカバリードリブンプランニングの最終段階は、仮説の特定と明確化、文書化、テストです。事業の運用計画を進める中で、運用仕様と仮説チェックリストを作成し、重要なチェックポイントでテストします。
ディスカバリードリブン戦略を成功裏に使用している企業は、非現実的である事が明らかになって来た元の計画を実行しようとするのではなく、頻繁にプロジェクトをリダイレクトします。パフォーマンスの目標達成に関しては同じであっても、リダイレクトはそのパフォーマンスの達成方法を変更するものです。
そして、必要に応じて撤退することも考えます。成功しないプロジェクトを終了するための撤退計画を策定する必要があることを忘れないでください。このようなプロジェクトを終了させることが、会社がこれまでの投資から最大限に利益を得ることを可能にする建設的なプロセスと見なされるようにします。また、必然的に失望するステークホルダーや支持者、プロジェクト終了決定の政治的側面をどのように扱うかという重要な問題に対処するようにします。
・ディスカバリードリブン成長戦略: 実証済みのコンセプト
不確実性が高い場合、未知のプロジェクトに大規模な投資をすることはしばしば失望への道となります。ディスカバリードリブン成長アプローチを使用することで、プロジェクトのリスクを軽減し、ダウンサイドエクスポージャーをコントロールできます。それは事業環境が大きく変化する化する今こそ必要とされるアイデアです。
本稿では、ステップ2: 事業機会ポートフォリオの作成について、より詳細を説明しています。