これまで筆者は、意思決定の品質を決める「合理性と合意性」についてたびたびコラムで取り上げており、日本型の意思決定プロセス、あるいは政治における国民の意思決定装置である選挙において「合意性」が重要な役割を果たしている、と述べてきました(注)。
今回のコラムでは、意思決定が行われる場の代名詞ともいうべき「会議」に焦点を当て、会議と合意性の関係において重要と思われるポイントを一冊の文献から抜粋してご紹介します。
ここで取り上げる文献は森田朗著『会議の政治学』(慈学社出版、2006)です。東京大学公共政策大学院長や東京大学政策ビジョン研究センター長などを歴任し、また政府や地方自治体における審議会の座長・委員などを数多く務める著者が、その中で得たさまざまな会議経験を元に、会議参加者の行動とその影響、政策や重要事項の決定プロセス、そして効率的で有意義な会議運営を行うための手法などを考察しています。なお本著の記述は審議会を直接の対象にしていますが、そこで述べられている内容は多くの会議に広く当てはまるものと思われます。(以下、『』内は本著より引用)

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会議とは、『意見の異なる委員が、自己に有利な結論を得べく、議論をたたかわす』場です。そのような会議の場で合意を形成するためには、委員の性格や会議での行動様式をしっかりと把握し、それを踏まえて各自が行動することがまず大事になります。
行動のタイプには以下のような典型例があります。
(1) バランス配慮型
 『会議の目的、使命を充分に認識し、その上で審議の進行状況を理解し、自己抑制し、全員が納得できる結論に到達できるように配慮して発言する』委員と定義されています。このタイプの委員が多いと会議はスムーズに進行する一方、全員がこのタイプの場合、雰囲気はよいにしても審議が進まず座がしらけ、盛り上がりに欠ける会議になりかねません。
(2) 自己主張型
 バランス配慮型とは対極に位置し、『状況に関わりなく発言して、自分のいいたいことをいう』委員のことです。会議は主張の場である以上、自分の見解を堂々と述べことは必要であり何ら問題ないが、他の委員の発言や立場に配慮のない発言は議論の混乱につながる恐れがあります。
(3) 自己顕示型
 自己主張型と似ていますが、『何か主張したいことがあるのではなく、内容はともかく発言することによって、自己の存在を確認し誇示したい』性格の持ち主です。このタイプの委員は、議論の文脈と関係なく、辛辣に誰かを批判し、また、現状や政策に対する不満をぶちまけ、自己の存在を強調したがる傾向にあります。
(4) 専門閉じこもり型
 『自分の専門分野については、強い関心を示し積極的に発言し、議論をリードしたがるが、専門外のことには全く関心をもたず、発言もせず』無責任なタイプであると延べられています。他の委員の提案に対して、自分の専門の見地から反対意見を述べるものの、他分野の専門家ではないので代案を示すことはしない、という行動がしばしば見られます。
(5) 理念追求型
 このタイプの委員は『世界平和、環境保護、人権擁護、男女共同参画等の普遍的な理念の追求を使命と心得ていて、あらゆる機会にその重要性を説く』言動をします。追求する理念自体に反対する人はほとんどいませんが、たとえ会議のテーマや目的と直接関わりない場合であっても、そのことを主張します。
(6) 無関心型
 『どのような結論に至ろうとも、それほど強い関心をもっていないのであって、(中略)審議に関しては、もめることなく、早く終わることを期待している』人を指します。会議では欠席も多く、また出席してもほとんど沈黙しているか当たり障りのない発言を行うのみですが、実は『彼らの暗黙の支持が多数派を構成し、サイレント・マジョリティとして、少数派に多数意見を受け入れさせる強いプレッシャーとなる』点で、審議を順調に進める上では大きな存在となります。
(7) 拒否権行使型
 一見無関心型と見分けがつかず審議中は沈黙を守っていますが、『自分が代表している団体や組織の利益に反するような意見が出たり、影響を受ける可能性がある場合には、積極的に発言し、自分の代表する団体の利益を断固として守ろうとする』ように振舞います。要するに、自分の利益のテリトリーを侵される可能性がある場合にだけ、拒否権を行使するために委員として出席しているタイプです。

これらのタイプを踏まえた上で、委員に十分に意見をいわせて議論させ、しかし予定された時間内に一定の合意に達するための筋書き具体例が以下のように挙げられています。
・会議の冒頭では、自己主張型の委員に発言を促し、それをきっかけに他の委員から発言を引き出す。
・ある程度さまざまな意見が出て、争点が収斂してきたら、自己顕示型や専門閉じこもり型の委員の発言はできるだけ封じる。
・バランス配慮型の委員に、多数の委員が受け入れられるような提案をするように促して、そろそろ終了時間が気になりだした無関心型の多数の委員に、その日の会議の落とし所を察知させ、タイミングを見てその日の会議の合意内容を確認する。
・ほぼ全員の合意が得られそうな段階にいたって、すべてをぶち壊しかねない拒否権行使型委員の行動には注意を要する。

また筆者が本著を通じで印象的に感じたのは、合意性というのは目的でもあり手段でもある、ということが現実の会議では(会議として理想的かどうかはさておき)重要視されている点です。本著で扱っている審議会は、政府や地方自治体の諮問機関であり『政治から距離を置いた調整の場として期待されている以上、それが結論を出し、諮問に対する答申を権威あるものにするためには、全員一致であることが望ましい』性格を有するため、メンバー全員が合意すること自体が会議の目的になってきます。それも、どうしてもメンバー間で意見の対立が残る場合は、審議会としての意思決定の結果である答申に両論併記されることもあり、合意内容はともかく合意したという事実が重要視されていることの表れと言えます。ただ合意性を目的として重んじるあまり、合意することが暗黙の前提となり、合意性を手段として会議での議論を進めようとすることにつながります。「(多数派の横暴によるものにせよ少数派の抵抗によるものにせよ)合意性が乱されることは良くないことであることは全員が理解している」という共通認識のもと、合意することを梃子に、多数派は会議の雰囲気を支配して少数派に全員一致への圧力を掛け、また少数派は逆に全員一致するための条件として自らに有利な主張を少しでも取り入れるよう要求する、座長は上述した会議の筋書き例を頭に入れて議事運営に当たる、などのケースが該当します。この点を本著では以下のように端的に示しています。『全員一致を原則とすることで、合意への圧力を作り出す仕組みが作れているのであるが、その圧力は「伝家の宝刀」である多数決のルールからきている。それゆえ、合意の権威を維持するためには、当然に、その「伝家の宝刀」は抜いてはならないのであり、また抜かせてもいけないのである。』

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以上、『会議の政治学』より会議と合意性の関係を特徴づけているポイントをかいつまんでご紹介しましたが、いかがでしょうか。読者の皆様もさまざまな会議に出席されていることと思いますが、「『合意性』は目的でもあり手段でもある」という視点を持つことが、会議を効率良くしかも成果を多く挙げる上でのご参考になりましたら幸いです。

(楠井 悠平)

(注)Vol.34(2009.2.26) 「『日本の政治』に見る日本型意思決定の特徴」、Vol.40(2009.8.27) 「『選挙』は意思決定に優れているか?」参照。
http://www.integratto.co.jp/column/034/
http://www.integratto.co.jp/column/040/