こんにちは、インテグラートにてマーケティングを担当している春原(すのはら)です。

 インテグラートは仮説指向計画法(Discovery-Driven Planning。以下、DDP。注1)という経営理論を基礎として、DDPの発表(1995年。注2)以来24年間に亘り、製品・サービスの開発・提供を行って参りました。

 DDPは、お客様からは『理論は素晴らしいことはよくわかるが、どのように実践するのか事例をもっと知りたい』という声をよく聞きます。そこで今回は、手前勝手な例で恐縮ですが、2019年に弊社が主催したフォーラム(BSF2019。注3)運営の舞台裏を、DDPの実践事例として皆様にご紹介いたします。皆様のDDPご理解・ご活用に資すれば幸いです。

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 まずDDPの内容について簡単にご説明します。DDPは以下の2つの質問(2つの柱)に要約されます。

1. 我々は何に賭けているのか?(逆損益計算法)
2. その仮説は生きているのか?(マイルストン計画法)

 VUCA(不安定、不確実、複雑、曖昧)時代と呼ばれる現代において、この質問を問い続け、「目指すべき姿(ゴール)」と「仮説(ゴールの達成に必要な条件)」、「両者の因果関係(関係性、収益構造、モデル、など)」の三点を管理し続けていくことで、対象(企業や事業、プロジェクト、など)の価値の棄損を防ぎ、価値の創造・最大化を目指します。

 ここでいう「目指すべき姿」や「仮説」、「両者の因果関係」は、未来のことなので、誰も断定することは出来ません。DDPはこの不確実なものに対して、1.(逆損益計算法により)「目指すべき姿」・「仮説」・「両者の因果関係」を明確化し、2.(マイルストン計画法により)「仮説」と「両者の因果関係」を検証・再立案します。

 そうすることで、当初の想定の外れや環境の変化を早期に捉え、必要に応じて代替案となる新たな戦略・行動の創出を継続し、目指すべき姿の実現を図ります。そこにDDPの価値と難しさがあります。

 DDPは優れた経営者やリーダーが普段から実行していることが多く、その暗黙知を形式知にすることで、優れた手法を組織で実践できるようになります。先日、元カルビーCEOの松本晃氏に弊社フォーラムで講演をして頂きましたが、松本氏は「DDPの言う仮説検証型マネジメントは正に僕がやってきたこと」と言われています。

【DDP実践事例:弊社フォーラム運営の舞台裏】

 それでは本題であるDDPの弊社での実践事例を皆様にご紹介致します。読者の方には実際に弊社フォーラムにお申し込みを頂き、筆者からメールを受信された方もいらっしゃると存じますが、このような舞台裏があったのだとご笑覧いただけましたら幸いです。

 まずフォーラムの「目指すべき姿(ゴール)」と「仮説(条件)」は、下記【フォーラムDDP】の通りに考えました。

【フォーラムDDP】
「目指すべき姿(ゴール)」 : イベント申込人数・1,350名様。前年フォーラム申込人数1,300名を上回る。希望の方々をお断りすることなく、全員着席して聞いていただく。
 ※来場者数など他にも目標はありましたが、本コラムでは話をシンプルにするために、イベント申込者数に限定してお話をさせて頂きます。

 <「目指すべき姿(ゴール)」を達成するための「仮説(条件)」>
1. 【仮説】前年フォーラムの基調講演者である伊藤邦雄教授(一橋大)に引けを取らない講演者の方
 →【行動】元カルビーCEOの松本晃氏に基調講演を依頼

2. 【仮説】昨年フォーラムのテーマ「事業投資のリスク低減」以上にお客様を惹き付けるテーマ
 →【行動】「既存事業の再起動」をテーマに、企業の屋台骨である既存事業の変革を目指す

3. 【仮説】前年フォーラムの構成よりも充実した構成
 →【行動】例年好評である小川康社長、井上淳取締役の講演に加え、元日本ケロッグCFO・日本CFO協会主任研究委員の弊社エグゼクティブコンサルタントの池側も講演者に加え、松本晃氏の基調講演〜DDP理論と既存事業の再起動の主旨〜目標達成に有効な組織構築〜DeRISKシステム紹介・説明、といった展開で講演内容を編成

 上記の仮説と行動を基に「前年以上の申込数を担保できるであろう」というゴールを確認しました。そして、前年に実施した各集客施策(自社Mail、広告Mail、封筒DM、セミナー、HP、など)の申込率から類推した数値を本年の目標申込率の仮説として置き、本年の目指すべき姿(ゴール)を達成するために必要な送付件数を算出し、各集客施策を実行しました。

 上記の目指すべき姿(ゴール)と仮説を以て、集客を開始したところ、松本氏の効果も大きく、開催1ヶ月以上前にゴールである1,350名のお申し込みに至る状況となりました。

 ここで問題が発生しました。このまま申し込みを受け続けると、希望者の方々をお断りすることになってしまいます。それは弊社が目指すところではありません。そこで筆者は弊社の社長と相談して、サテライト会場を手配する事とし、そのまま受付を継続しました。封筒によるDMもお客様に届き、お申し込みが加速度を持って増える中、「お客様にとって何が一番良いか」ということを改めて社長と相談し、「第二日程でのフォーラムを開催し、希望するすべてのお客様に着席して講演を直接聞いて頂くという当初のあるべき姿を達成すべきである」という結論に至りました。

 その時点で既にお申し込みが1,450名を超過し、二日程でフォーラムを開催するためには、下記の仮説(条件)の実行を可能にするする必要がありました。
 ※ご着席頂けるお申し込み者数の上限は、会場の容量から1,350名程度。

【実行する必要のある仮説(条件)】
1. 松本氏に2回目の講演を引き受けて頂く
2. 松本氏が講演可能な日に会場を使用できる
3. 講演1回目のお申込者様のうち200名程度、講演2回目に変更頂く

 まずは1. 2. に関しては翌週に同じ会場を確保して、松本氏に2回目の講演をすることを快諾していただきました。また、3. については、寛大なお客様が多数いらっしゃったお陰で、「日程変更のご相談」メールを送付した当日に400名以上の方が日程変更承諾のご返信をくださり、無事、二日程でのフォーラム開催を実現できました。

 最後にフォーラム開催の結果としては、2,100名を越えるお申し込みを頂き、仮説として考えていたキャンセル率も想定内に収まり、弊社創業以来、最大のイベントとして無事二日程での開催を終了しました。希望するお客様全員に講演を聞いていただくことができました。

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 以上が弊社フォーラム運営の舞台裏での、DDP実践の事例紹介でした。DDP理論をフォーラム運営業務にも活用することで、当初のフォーラム実行目標を大幅に超えて達成できました。そこには幾つもの不確実性(リスク)がありましたが、仮説を明確にして管理したことで、迅速に打ち手を取ることができました。

 特に本フォーラムが成功に至った大きな要因は、2回の講演を快諾頂いた松本氏と、お申込みや日程変更を頂いたお客様のお陰であると考えております。皆様にはこの場を借りて、改めて深く御礼申し上げます。

 また、日々の業務でも下記の簡単な質問により重要な観点を明確にするツールとして、DDPは非常に便利です。

a) 目指すべき姿(ゴール)は何か?
b) 仮説(ゴール達成のための条件・行動)は何か?
c) ゴールと仮説の因果関係は何か?

 上記の質問は、本コラム冒頭でご説明した「1. 我々は何に賭けているのか?(逆損益計算法)」を、特に重要な3つの要素に分解した質問となっております。このようなシンプルな質問からDDP実践を始めて頂ければと存じます。

 DDPは不確実な状況に対してこそ、より大きな力を発揮します。皆様の日々の個人業務でも上記の質問を活用して、積極的にDDPに慣れ親しんで頂き、更には全社プロジェクトにも適用して、組織の文化として根付かせて頂ければ幸いです。

 なお2019/10/28に経営者向け雑誌「ダイヤモンド クォータリー」にて、「DDP:仮説指向計画法への招待」という題で、弊社社長の小川が執筆した連載記事第一回が掲載されました(注4)。本記事は、【こちら】からご覧頂けます。

 本コラムが皆様の業務におけるDDP活用のご参考となれば幸甚です。

(春原 易典)

(参考文献)
(注1)『DDP+SDM 基礎とする2つの経営理論』
https://www.integratto.co.jp/sdmddp/

(注2)“Discovery-Driven Planning” Harvard Business Review, July-August 1995
https://hbr.org/1995/07/discovery-driven-planning

(注3)『インテグラート ビジネスシミュレーション フォーラム 2019』
https://www.integratto.co.jp/bsf2019/

(注4)『記事掲載のお知らせ『DDP:仮説指向計画法への招待』(ダイヤモンド クォータリー)』
https://www.integratto.co.jp/news/20191122_02/